オオホシハジロ Aythya valisineria

野鳥 > カモ目 > カモ科 > ハジロ属

三重県津市 2019/1/4
※分布図は目安です。

分布3,4):稀な冬鳥として各地から記録があり、主に関東以北での観察例が多い。国外では北米大陸北部~中部で繁殖し、冬季は北米大陸南部へ渡る。

ホシハジロに似て一回り大きなカモの仲間。国内では稀な種で、オスは英名の通りキャンバスのような純白に近い肩や脇の色が特徴的。嘴や頸はホシハジロより長く、頭部の印象はかなり異なる。本来は北米のカモで、北日本での確認例が多いが、西日本でも各地で記録されている。

オオホシハジロの概要

希少度★★★★(稀)
全長1)48-61㎝
生息環境4)湖沼、池、河川、内湾など
学名2)valisineria…イタリアの学者Antonio Vallisnieriにちなんで名づけられた水草のセキショウモ属Vallisneriaを好んで食べることから
英名5)Canvasback「オオホシハジロ」(canvas=キャンバス、帆布)

オオホシハジロの形態

※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。

オス生殖羽

三重県津市 2018/11/18

オス生殖羽。
ホシハジロと異なり嘴は全体が黒く、額も黒い。
嘴はホシハジロより長く、嘴峰は額にかけて直線をなす。

三重県津市 2018/11/18

同一個体。
頸は非常に長く、頸を延ばすと非常に特徴的なプロポーションとなる4)
ホシハジロより明らかに白っぽい肩や脇の色がよく目立つ。

三重県津市 2018/11/18

同一個体。
翼の大部分は灰白色で、初列風切先端~外縁や初列大雨覆などが黒褐色を帯びる。
幼鳥では雨覆が褐色のため、年齢の識別は比較的容易で、この個体は成鳥と判断できる。

三重県津市 2018/11/18

同一個体。
上尾筒、下尾筒は黒い。

三重県津市 2019/1/4

同一個体。
嘴の基部はがっしりしている。

三重県津市 2019/1/4

同一個体(中央右)。
周囲のホシハジロオスと比べ、肩や脇がより白っぽく目立っている。

年齢・雌雄の識別

雌雄の識別

国内では完全な幼羽が観察されることはないと考えられ、雌雄の識別に迷うことはないと思われる。
オスは幼鳥でも冬までにはオスらしい頭部の色彩になる4)
オス成鳥のエクリプスもオス生殖羽に似た羽衣で、メスとは似ていない4)

オスの年齢の識別

1年目冬のオスでは腹部などに褐色の幼羽が残る4)
成鳥エクリプスはオス生殖羽に似て、全体にやや色が鈍いような羽衣で、幼羽とは似ていない4)
翼のパターンが確認できれば、雨覆が白っぽいことでシーズンを通してオス成鳥と容易に判断できる9)
幼鳥の雨覆は褐色9)

メスの年齢の識別

冬のメス成鳥は腹が白いが、幼鳥(1年目冬)は腹部に褐色の幼羽が残る4)
幼鳥の頭部はパターンが不明瞭で一様な色に見える傾向4)

ホシハジロとの識別

オスでは下記画像の通り、体サイズや肩・脇の色、嘴の色と形、頭部の色などが識別ポイントとなる。
典型的なものでは識別は難しくないが、ホシハジロのオスでもエクリプスや幼羽では嘴が黒っぽいため、嘴の色だけでなく体型なども併せて判断する。

メスでも体サイズや頸の長さ、嘴の形などにより識別可能。
オオホシハジロのメスの嘴は黒く、ホシハジロのメスにあるような淡色部がないが、ホシハジロでも個体によっては嘴が黒く見えることがしばしばあるため注意。

分類

亜種は認められていない5)

近縁種

オオホシハジロはハジロ属の中で、以下の2種と特に近縁6)。(学名等はIOC13.25))
・ホシハジロ(Common Pochard) Aythya ferina:ユーラシア
・アメリカホシハジロ(Redhead) Aythya americana:北米

オオホシハジロの生態

食性と採食行動

潜水し、動物質・植物食の両方を食べる4,7,8)

カナダでの春~秋を対象とした研究では、動物質としてはトビケラの幼虫や巻貝、ユスリカの幼虫、カゲロウの幼虫、トンボの幼虫などを食べており、植物質としてはイトクズモ属やヒルムシロ属、アブラガヤ属、マツモ属、スゲ属、フサモ属、アカザ属、シャジクモ属などを食べていたことが報告されている7)

アメリカでの越冬個体を対象とした研究では、動物質としては二枚貝が大部分を占め、他にヨコエビ、ゴカイ、カニなどを食べていた8)
また、植物質としてはカワツルモ、ヒロハノエビモ、アメリカセキショウモ、アマモなどを食べていたが、植物質は一部に過ぎず、大部分が動物質、特に二枚貝だったと報告されている8)

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)Livezey, B. C. (1996). A phylogenetic analysis of modern pochards (Anatidae: Aythyini). The Auk, 113(1), 74-93.
7)Bartonek, J. C., & Hickey, J. J. (1969). Food habits of canvasbacks, redheads, and lesser scaup in Manitoba. The Condor71(3), 280-290.
8)Perry, M. C., & Uhler, F. M. (1988). Food habits and distribution of wintering canvasbacks, Aythya valisineria, on Chesapeake Bay. Estuaries11(1), 57-67.
9)Carney, S. M. (1992). Species, age, and sex identification of ducks using wing plumage. US Department of the Interior, US Fish and Wildlife Service.

編集履歴

2024/10/9 公開