ベニイトトンボ Ceriagrion nipponicum

昆虫 > トンボ目 > イトトンボ科 > キイトトンボ属

大阪府茨木市 2015/7/13
※分布図は目安です。

分布1,2):本州(関東以西)、四国、九州(壱岐、五島を含む)。分布は局地的。国外では朝鮮半島、台湾、中国。

その名の通りの赤い体色が特徴的なイトトンボの仲間。植生の豊かな池に生息する希少種だが、水草と共に人為的に運ばれることもある。九州ではよく似たリュウキュウベニイトトンボと分布が重なっている。

ベニイトトンボの概要

出現時期6月上旬-10月上旬1)。近畿では6月下旬から9月下旬に多い3)
希少度★★★(やや稀)
全長1)オス32-43㎜、メス36-45㎜
生息環境1,2)平地~丘陵地の低湿地。ヨシ・ガマ等の抽水植物や浮葉植物、沈水植物の繁茂する池沼。

ベニイトトンボの形態

オス

京都市 2016/7/23

オスは体の大部分が赤い。
成熟に伴って赤くなる他の赤いトンボと異なり、本種は羽化した時点ですでに体色が赤い1)

大阪府茨木市 2015/7/13

オス(別個体)。
体色のほか、副性器があることや腹端の形状でメスと区別できる。

奈良市 2018/8/5

オス(別個体)。
リュウキュウベニイトトンボと一部分布が重なるが、本種は複眼まで赤くなることが異なる(後述)。

メス

大阪府茨木市 2015/7/13

メスはオスほど鮮やかに赤くならない。
キイトトンボの黄色みの弱いメスと似るため注意。

大阪府茨木市 2015/7/13

メス(別個体)。
メスは繁殖行動の際を除いて水辺からかなり離れた場所で見られる3)

識別

リュウキュウベニイトトンボとの識別

九州ではリュウキュウベニイトトンボと分布が重なる。
オスでは複眼の色、尾部下付属器の突出具合が識別ポイントになる。
メスでは同様に複眼の色のほか、腹端上面の黒色部の有無が識別ポイントになる。
詳細は下記比較画像を参照。

キイトトンボとの識別

ベニイトトンボのメスはキイトトンボの黄色みが弱いメスによく似ている。
確実な識別点としては、前胸の形を真上から観察するとよい(キイトトンボのほうがベニイトトンボより左右の張り出しが強い)1)

ベニイトトンボの生態

繁殖行動

静岡県磐田市 2016/8/20

交尾後は連結態で産卵することが多く、オスは直立姿勢で周囲を警戒する。
メス単独での産卵も見られる1,3)

同属のキイトトンボとの比較研究では、ベニイトトンボのオスがメスの飛来を待つのに対し、キイトトンボは水辺を積極的に飛翔してメスを探索することが分かっている4)
その分、ベニイトトンボではキイトトンボよりも集団内の個体の密集程度が高いようだ4)

分類

本種の属するキイトトンボ属Ceriagrionは、国内の属ではカラカネイトトンボ属Nehalenniaと形態的に類似している1,2)
これら2属は前額が丸く突出せず、触角の間に横方向の隆条がある点で日本産の他のイトトンボ科と異なる1,5)
形態のみならず分子系統学的解析によっても、これら2属を含むグループは科に相当するレベルで残りのグループと差異があると考えられている2)

なおキイトトンボ属には世界に約50種が知られており、国内には本種とリュウキュウベニイトトンボ、キイトトンボの3種が産する1,6)

減少と人為的な分布拡大

ベニイトトンボは比較的希少な種であり、全国的に減少傾向だったが、最近になって新産地が次々に発見されている。
これは水草の移動に伴う人為的な移入と考えられており、同属のリュウキュウベニイトトンボでも同様に人為移入の例が知られている1,3)

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
4)Mizuta, K. (1988). Adult ecology of Ceriagrion melanurum Selys and C. nipponicum Asahina (Zygoptera: Coenagrionidae). 2. Movements and distribution. Odonatologica, 17(4), 357-364.
5)Dijkstra, K. D., & Kalkman, V. J. (2012). Phylogeny, classification and taxonomy of European dragonflies and damselflies (Odonata): a review. Organisms Diversity & Evolution12(3), 209-227.
6)Paulson D., Schorr M., Deliry C 2022. 『World Odonata List 20220526』https://www2.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/ 2022/6/11閲覧

編集履歴

2024/10/3 公開