身近な環境で見られる小型のカモの仲間。日本の水面採餌ガモでは最も小さな種である。あまり人間の与える餌を食べず、警戒心も高いため近くで観察しづらいことが多い。冬鳥であるが秋の比較的早い時期から見られ、飛来当初はオスもメスとそっくりな見た目をしていることから識別が難しい。
コガモの概要
希少度 | : | ★(ごく普通) |
全長1) | : | 34-38㎝ |
生息環境4) | : | 河川、池、湖沼など |
学名2) | : | crecca…スウェーデン語Kricka「コガモ」から |
英名5) | : | Eurasian Teal「ユーラシアのコガモ」 |
コガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス生殖羽
オスエクリプス
オスエクリプス→生殖羽移行中
オス幼羽

オス幼羽。
胸~腹に幼羽特有の小斑が並ぶ。
幼羽のオスとメスは非常によく似るが、写真の個体は脇などに波状斑が出ているためオス。
頭部の色彩や最外三列風切の黒色もオスであることを支持しているように思うが、個体差がある。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中
メス生殖羽
メス非生殖羽
年齢・雌雄の識別
コガモは個体差が多く、年齢や雌雄の推定が場合によってかなり難しい。
特にメス成鳥とオス幼鳥、メス成鳥とメス幼鳥の識別は、翼のパターンのみからでは時に不可能である15)。
季節が進めば、性別の識別は容易になるが年齢の識別は難しくなる。
以下に、主に秋口における年齢と性別の識別ポイントについて挙げる。
様々な要素を総合して判断/推定する必要がある。
肩羽
オスのエクリプスでは他の羽衣と異なり、横斑(羽軸に対して直角の淡色斑)が目立つ傾向4)。
目立たない個体もいる。
幼鳥では成鳥より尖る傾向(換羽すると分からなくなる)4)。
脇の羽
幼鳥では成鳥より尖る傾向(換羽すると分からなくなる)4)。
胸~腹の羽
幼羽では特有の小斑が並ぶ(換羽すると分からなくなる)4)。
尾羽
幼鳥では先端が小さく切れ込む(「Vノッチ」)のに対し、成鳥では切れ込まない4,15,16)。
幼鳥の方が摩耗が激しい傾向(換羽すると分からなくなる)15)。
三列風切
オスはいずれの羽衣でも最外三列風切の外弁がはっきりと黒い傾向15)。
メス非生殖羽ではオスと変わらず黒い個体からほとんど黒くないものまで様々である。
幼羽でもオスの方がメスより最外三列風切が黒い傾向のようだが、あくまで傾向。
なお、オス成鳥では三列風切が長く、やや垂れ下がる傾向がある。
メスでは非生殖羽や幼羽でも三列風切に淡色斑が入る個体が少数いるが(私信)、オスではそのような個体は基本的にいないようである。
翼鏡
オスでは次列風切のうち、内側から4~5枚(幼鳥では稀に3枚)が大部分緑色。外弁全体が緑色の羽が4枚以上あればオスである15)。
メスでは次列風切のうち、内側から2~4枚が大部分緑色。外弁全体が緑色の羽が3枚以下であればメスである15)。
大雨覆先端の白色帯
オス成鳥で最も太く、メス幼鳥で最も狭い傾向4)。
ただし個体差があり、参考程度。
小・中雨覆
オスではメスよりも灰色みが強く、羽縁が目立たず一様に見える4)。
メスでは褐色みが強く、淡色の羽縁が目立つ4)。
ただし個体差があり、また羽縁は摩耗によって目立たない場合がある。
年齢による差は軽微であり、野外での識別に使うのは苦しいが、成鳥では幼鳥より幅広い形15)。
嘴
オス成鳥はエクリプスの時期には基部が黄色みを帯びる場合があるが、生殖羽では黒い4,15)。
典型的なメス成鳥では黄色みを帯び、互いに融合する大きな黒斑がある。ただし真冬にはほぼ黒くなる4,15)。
秋の幼鳥では基部が黄色みを帯びるのが典型的で、メスでは小さな丸い黒斑がある場合がある15)。
他種との識別
アメリカコガモとはオス生殖羽を除き、極めてよく似ている。
アメリカコガモとの識別についてはアメリカコガモのページを参照。
また、慣れないうちはオス生殖羽を除いて他種との識別に迷うことがあるかもしれない。
しかし小さな体サイズ、しばしば黄色みを帯びる嘴、体色などから基本的には識別は容易。
カモのメスの識別については別途ページを作ってまとめる予定である。
分類
亜種について
日本鳥類目録第7版では、アメリカコガモをコガモの亜種Anas crecca carolinensisとしている8)。
しかし国際的には別種として扱う考えが一般的であり、その場合アメリカコガモはA. carolinensisとなる(例えば5))。
アリューシャン列島から亜種nimiaが記載されているが4,16)、変異は連続的であるとしてIOC13.2では採用されていない5)。
カモ科の属の再編とコガモ
コガモはオナガガモやマガモ、カルガモなどと共に、新マガモ属Anas(旧マガモ属からMareca、Spatula、Sibirionettaを分離して残った群)に属している5)。
この新マガモ属の中では北米のアメリカコガモ、南米のキバシコガモA. flavirostris、コロンビア・エクアドルのアンデスコガモA. andiumとともに4種でGreen-winged tealsと呼ばれるグループを形成している9,10)。
コガモの生態
食性と採食行動
コガモは主に植物食で、藻類やイネ科植物の種子などを食べる4)。
水面上で採餌することが多いが、ごく稀に潜水採餌を行った例が報告されている11)。
旧北区西部を対象としたレビューでは、スゲ属、ハリイ属、オオムギ、ヒルムシロ属、キンポウゲ属、アブラガヤ属、コムギ等の植物種がコガモの給餌対象として挙げられている12)。
個体数について
冬季のガンカモ調査におけるコガモの確認個体数は近年15~20万羽前後で推移している7)。
2021年度のガンカモ調査においては139,887羽が確認されており、潜水採餌ガモを含めたカモ類の中でマガモ、カルガモ、オナガガモ、ヒドリガモに次いで5番目に多い種となっている7)。
国内での繁殖例について
全国鳥類繁殖分布調査では、北海道から本州にかけて夏季にコガモが少数確認されているが、繁殖しているかどうかの判断は難しいとされている13)。
一般的には北海道や本州の一部で繁殖するとされている13)。
繁殖の確認例としては古いものでは清棲(1934)14)による上高地の事例がある。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
9)Johnson, K. P., & Sorenson, M. D. (1999). Phylogeny and biogeography of dabbling ducks (genus: Anas): a comparison of molecular and morphological evidence. The Auk, 116(3), 792-805.
10)Rosinger, H. S., Kardailsky, O., Kennedy, M., Spencer, H. G., Steiner, F. M., Schlick-Steiner, B. C., … & Knapp, M. (2024). The radiation of Austral teals (Aves: Anseriformes) and the evolution of flightlessness. Zoological journal of the Linnean Society, 201(4).
11)上出貴士. (2015). 和歌山県日高町の西川で観察されたコガモの潜水行動. Bird Research, 11, S15-S19.
12)Dessborn, L., Brochet, A. L., Elmberg, J., Legagneux, P., Gauthier-Clerc, M., & Guillemain, M. (2011). Geographical and temporal patterns in the diet of pintail Anas acuta, wigeon Anas penelope, mallard Anas platyrhynchos and teal Anas crecca in the Western Palearctic. European Journal of Wildlife Research, 57, 1119-1129.
13)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
14)清棲幸保. (1934). 日本アルプス上高地に發見したコガモの巣に就いて (第七圖版附). 鳥, 8(39), 301-303_1.
15)Mouronval, J.B. 2016. Guide to the sex and age of European ducks. Office national de la chasse et de la faune sauvage, Paris – 124 pages
16)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
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2024/10/8 公開