コガモ Anas crecca

野鳥 > カモ目 > カモ科 > Anas

仙台市泉区 2024/3/10
※分布図は目安です。

分布3,4,6,7,13):冬鳥として全国に飛来する。全都道府県で観察される7)。北海道や本州の一部で繁殖するとされるが、繁殖数はごく少ない13)。国外ではヨーロッパを含めユーラシア大陸に広く分布。冬季はアフリカにも渡る。

身近な環境で見られる小型のカモの仲間。日本の水面採餌ガモでは最も小さな種である。あまり人間の与える餌を食べず、警戒心も高いため近くで観察しづらいことが多い。冬鳥であるが秋の比較的早い時期から見られ、飛来当初はオスもメスとそっくりな見た目をしていることから識別が難しい。

コガモの概要

希少度★(ごく普通)
全長1)34-38㎝
生息環境4)河川、池、湖沼など
学名2)crecca…スウェーデン語Kricka「コガモ」から
英名5)Eurasian Teal「ユーラシアのコガモ」

コガモの形態

※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。

オス生殖羽

仙台市泉区 2024/3/10

オス生殖羽。
頭部の色彩、肩羽の白線と黒線、下尾筒の脇の黄色部が特徴的で他種との識別は容易。

埼玉県川越市 2023/12/27

オス生殖羽(別個体)。
嘴は黒色。
頭部は栗色で、目の周辺から後頭部にかけて緑色部がある4)
腹は白い。

京都市左京区 2017/4/1

オス生殖羽(別個体)。
脇羽は白い。

京都市東山区 2024/2/11

オス生殖羽(別個体)。
翼鏡(内側次列風切)は光沢のある緑色で、角度によって青色に輝く。
大雨覆先端は幅広い白色~クリーム色の帯となる。

オスエクリプス

滋賀県草津市 2018/10/13

オス成鳥エクリプス。
秋のオス成鳥はメスによく似たエクリプス羽の状態で渡来する。
典型的な個体ではこの写真のように肩羽の斑が横斑(羽軸に対し直角)であることでメスの非生殖羽と識別できる4)
この個体は古い三列風切が脱落している。

滋賀県草津市 2018/10/13

オス成鳥エクリプス(別個体)。
メス非生殖羽との識別点として、他に眉斑が目立たずヘルメットをかぶったような頭部の色彩になること、三列風切が長く先がやや垂れ下がることなどが挙げられる4)
個体差もあるため総合的に判断する。

仙台市宮城野区 2024/10/3

オス成鳥エクリプス(別個体)。
肩羽に斑が目立たないこのような個体もしばしば見られる。
肩羽や脇の羽が丸みを帯びていることから恐らく成鳥ではないかと思われる。
エクリプスの嘴はメスと同様に黄色い場合がある。

京都市左京区 2018/10/9

オス成鳥エクリプス(別個体)。
雨覆が確認できれば、羽縁が目立たず一様な灰色であることでメスと識別できる4)
ただし個体差がある。

オスエクリプス→生殖羽移行中

滋賀県草津市 2018/10/13

オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中。
波状斑が出てきていればオスであることは容易に判断できる。
肩羽の横斑はオスエクリプスによく見られる特徴。

京都市左京区 2017/10/10

オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
眉斑が目立たずヘルメットをかぶったような頭部の色彩(オスの特徴)、丸みを帯びる肩羽や脇の羽(成鳥の特徴)、はっきりと黒い最外三列風切外弁(オスの特徴だがメスにも見られる)などに注目。

仙台市宮城野区 2024/10/3

オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
環境により体が赤さび色に染まっている。
肩羽や脇の羽は丸みを帯びており恐らく成鳥であると考えられる。

京都市左京区 2017/10/10

オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
雨覆は冬の間を通してほぼ換羽せず、雌雄識別の大きな手掛かりになる。
オスでは一様な灰色、メスでは淡色の羽縁の目立つ褐色のことが多い4)
ただし雨覆はオス幼鳥でも似たような色彩のため、年齢識別には使いづらい。
大雨覆の白色帯は成鳥の方が幼鳥よりやや太い傾向。

大阪府茨木市 2014/10/12

オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
頭部はオスらしい色彩。
肩羽や脇の羽が丸みを帯びていることや、胸~腹に幼羽が見当たらないことから成鳥と考えられる。

オス幼羽

大阪府茨木市 2014/10/12

オス幼羽。
胸~腹に幼羽特有の小斑が並ぶ。
幼羽のオスとメスは非常によく似るが、写真の個体は脇などに波状斑が出ているためオス。
頭部の色彩や最外三列風切の黒色もオスであることを支持しているように思うが、個体差がある。

オス幼羽→第1回生殖羽移行中

石川県金沢市 2016/11/20

オス幼羽→第1回生殖羽移行中。
頭部は換羽が進んでいるがその他は幼羽が多い。
脇羽の尖り具合から幼鳥であることが推測される。

京都市南区 2019/1/18

オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
肩羽や脇は先が尖る幼羽。
季節が進むにつれ成鳥と区別がつかなくなる。

メス生殖羽

奈良市 2017/2/19

メス生殖羽。
ただし三列風切は旧羽。完全な生殖羽の三列風切では肩羽と同様の橙色斑が入る。
非生殖羽と比べ、全体に橙色みが増す4)
年齢は不明。

奈良市 2017/2/19

同一個体。
メスでは通常雨覆の羽縁が淡色だが、この個体では摩耗のためか一様な灰色に見える。

メス生殖羽。
ただし三列風切は旧羽。
成鳥かもしれないが年齢は不明。

メス非生殖羽

滋賀県草津市 2018/10/13

メス成鳥非生殖羽。
生殖羽と比較して全体に橙色みが弱く、肩羽の斑も少ない。
オスのエクリプスや幼鳥とよく似る。
肩羽や脇の羽が丸みを帯びることで幼鳥と、最外三列風切が黒くないことでオスと識別できるが、オスに近い三列風切の個体もいるため注意。

京都市左京区 2017/10/10

メス成鳥非生殖羽(別個体)。
嘴に黒斑が散っているような個体はメス成鳥であることが多いように思うが、例外があるかもしれない。
最外三列風切の外弁はオスほどはっきり黒くない。

京都市右京区 2014/10/12

メス成鳥非生殖羽(別個体)。
迷いどころのないメス成鳥。
嘴の黒斑、黒くない最外三列風切などはメスであることを支持している。
肩羽や脇の羽が丸みを帯びていること、嘴の黒斑が多いこと、尾羽の先端が切れ込んでいないことから成鳥と考えられる。
三列風切には非生殖羽ながら淡色斑が入っており、このような個体はメスとしてもやや少数派。

京都市右京区 2014/10/12

同一個体。
雨覆に羽縁が目立つ点もメスの特徴。
大雨覆先端の白色帯はメス幼鳥より太い傾向で、この個体にも当てはまっている。

京都市左京区 2017/10/10

メス成鳥非生殖羽(別個体)。
頭部、嘴、三列風切、雨覆、換羽の進行度合いなど個体差が多く、時にオス幼鳥やメス幼鳥との識別は困難。

年齢・雌雄の識別

コガモは個体差が多く、年齢や雌雄の推定が場合によってかなり難しい。
特にメス成鳥とオス幼鳥、メス成鳥とメス幼鳥の識別は、翼のパターンのみからでは時に不可能である15)
季節が進めば、性別の識別は容易になるが年齢の識別は難しくなる。

以下に、主に秋口における年齢と性別の識別ポイントについて挙げる。
様々な要素を総合して判断/推定する必要がある。

肩羽

オスのエクリプスでは他の羽衣と異なり、横斑(羽軸に対して直角の淡色斑)が目立つ傾向4)
目立たない個体もいる。
幼鳥では成鳥より尖る傾向(換羽すると分からなくなる)4)

脇の羽

幼鳥では成鳥より尖る傾向(換羽すると分からなくなる)4)

胸~腹の羽

幼羽では特有の小斑が並ぶ(換羽すると分からなくなる)4)

尾羽

幼鳥では先端が小さく切れ込む(「Vノッチ」)のに対し、成鳥では切れ込まない4,15,16)
幼鳥の方が摩耗が激しい傾向(換羽すると分からなくなる)15)

三列風切

オスはいずれの羽衣でも最外三列風切の外弁がはっきりと黒い傾向15)
メス非生殖羽ではオスと変わらず黒い個体からほとんど黒くないものまで様々である。
幼羽でもオスの方がメスより最外三列風切が黒い傾向のようだが、あくまで傾向。
なお、オス成鳥では三列風切が長く、やや垂れ下がる傾向がある。
メスでは非生殖羽や幼羽でも三列風切に淡色斑が入る個体が少数いるが(私信)、オスではそのような個体は基本的にいないようである。

翼鏡

オスでは次列風切のうち、内側から4~5枚(幼鳥では稀に3枚)が大部分緑色。外弁全体が緑色の羽が4枚以上あればオスである15)
メスでは次列風切のうち、内側から2~4枚が大部分緑色。外弁全体が緑色の羽が3枚以下であればメスである15)

大雨覆先端の白色帯

オス成鳥で最も太く、メス幼鳥で最も狭い傾向4)
ただし個体差があり、参考程度。

小・中雨覆

オスではメスよりも灰色みが強く、羽縁が目立たず一様に見える4)
メスでは褐色みが強く、淡色の羽縁が目立つ4)
ただし個体差があり、また羽縁は摩耗によって目立たない場合がある。
年齢による差は軽微であり、野外での識別に使うのは苦しいが、成鳥では幼鳥より幅広い形15)

オス成鳥はエクリプスの時期には基部が黄色みを帯びる場合があるが、生殖羽では黒い4,15)
典型的なメス成鳥では黄色みを帯び、互いに融合する大きな黒斑がある。ただし真冬にはほぼ黒くなる4,15)
秋の幼鳥では基部が黄色みを帯びるのが典型的で、メスでは小さな丸い黒斑がある場合がある15)

他種との識別

アメリカコガモとはオス生殖羽を除き、極めてよく似ている。
アメリカコガモとの識別についてはアメリカコガモのページを参照。

また、慣れないうちはオス生殖羽を除いて他種との識別に迷うことがあるかもしれない。
しかし小さな体サイズ、しばしば黄色みを帯びる嘴、体色などから基本的には識別は容易。
カモのメスの識別については別途ページを作ってまとめる予定である。

分類

亜種について

日本鳥類目録第7版では、アメリカコガモをコガモの亜種Anas crecca carolinensisとしている8)
しかし国際的には別種として扱う考えが一般的であり、その場合アメリカコガモはA. carolinensisとなる(例えば5))。
アリューシャン列島から亜種nimiaが記載されているが4,16)、変異は連続的であるとしてIOC13.2では採用されていない5)

カモ科の属の再編とコガモ

コガモはオナガガモマガモカルガモなどと共に、新マガモ属Anas(旧マガモ属からMarecaSpatulaSibirionettaを分離して残った群)に属している5)
この新マガモ属の中では北米のアメリカコガモ、南米のキバシコガモA. flavirostris、コロンビア・エクアドルのアンデスコガモA. andiumとともに4種でGreen-winged tealsと呼ばれるグループを形成している9,10)

コガモの生態

食性と採食行動

コガモは主に植物食で、藻類やイネ科植物の種子などを食べる4)
水面上で採餌することが多いが、ごく稀に潜水採餌を行った例が報告されている11)
旧北区西部を対象としたレビューでは、スゲ属、ハリイ属、オオムギ、ヒルムシロ属、キンポウゲ属、アブラガヤ属、コムギ等の植物種がコガモの給餌対象として挙げられている12)

個体数について

冬季のガンカモ調査におけるコガモの確認個体数は近年15~20万羽前後で推移している7)
2021年度のガンカモ調査においては139,887羽が確認されており、潜水採餌ガモを含めたカモ類の中でマガモカルガモオナガガモヒドリガモに次いで5番目に多い種となっている7)

国内での繁殖例について

全国鳥類繁殖分布調査では、北海道から本州にかけて夏季にコガモが少数確認されているが、繁殖しているかどうかの判断は難しいとされている13)
一般的には北海道や本州の一部で繁殖するとされている13)
繁殖の確認例としては古いものでは清棲(1934)14)による上高地の事例がある。

文献

1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
9)Johnson, K. P., & Sorenson, M. D. (1999). Phylogeny and biogeography of dabbling ducks (genus: Anas): a comparison of molecular and morphological evidence. The Auk116(3), 792-805.
10)Rosinger, H. S., Kardailsky, O., Kennedy, M., Spencer, H. G., Steiner, F. M., Schlick-Steiner, B. C., … & Knapp, M. (2024). The radiation of Austral teals (Aves: Anseriformes) and the evolution of flightlessness. Zoological journal of the Linnean Society201(4).
11)上出貴士. (2015). 和歌山県日高町の西川で観察されたコガモの潜水行動. Bird Research11, S15-S19.
12)Dessborn, L., Brochet, A. L., Elmberg, J., Legagneux, P., Gauthier-Clerc, M., & Guillemain, M. (2011). Geographical and temporal patterns in the diet of pintail Anas acuta, wigeon Anas penelope, mallard Anas platyrhynchos and teal Anas crecca in the Western Palearctic. European Journal of Wildlife Research57, 1119-1129.
13)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
14)清棲幸保. (1934). 日本アルプス上高地に發見したコガモの巣に就いて (第七圖版附). 8(39), 301-303_1.
15)Mouronval, J.B. 2016. Guide to the sex and age of European ducks. Office national de la chasse et de la faune sauvage, Paris – 124 pages
16)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.

編集履歴

2024/10/8 公開