分布3,4,6,7):冬鳥として全国に飛来する。全都道府県で観察される7)。
オスの長い尾羽が特徴的なカモの仲間。人が与える餌によく集まり、個体数も多いために身近な存在のカモである。近い距離で観察できる機会も多いため、年齢の識別に挑戦しても面白いだろう。
オナガガモの概要
希少度 | : | ★(ごく普通) |
全長1) | : | オス61-76㎝、メス51-57㎝ |
生息環境4) | : | 河川、湖沼、池、沿岸など |
学名2) | : | acuta…ラテン語acutus「先の尖った」※尾羽のことと思われる |
英名5) | : | Northern Pintail「北のオナガガモ」 |
オナガガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス生殖羽
オス生殖羽。
頭部の色彩、長い中央尾羽などが特徴的で他種との識別は容易。
オス生殖羽(別個体)。
嘴は黒色で両側に青灰色部がある。
胸の白色が後頭部まで伸びる。
オス生殖羽(別個体)。
中央尾羽1対は黒色で長くなる。
この個体では右側中央尾羽は伸長中と思われる。
オスエクリプス→生殖羽移行中
オスエクリプス→生殖羽移行中。
大部分がメスに似たエクリプス羽(夏の間の地味な羽衣)。
中央尾羽もまだ短い。
完全なエクリプスはメスとよく似るが、最外三列風切が黒いことで識別できる(後述)。
オスエクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
大部分がエクリプス羽で、一部に波状斑の目立つ生殖羽が出てきている。
オスの幼鳥とも似るが、旧羽の斑紋や形状で識別できる(後述)。
オスエクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
換羽が進むにつれてオス幼鳥との識別が難しくなるが、雨覆が一様な灰色で羽縁が目立たないことで成鳥と分かる4)。
オスエクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
肩羽に幼羽のような淡色斑が目立たないことなどで成鳥と分かる4)。
オスエクリプス→生殖羽移行中(別個体)。
オス幼羽
オス幼羽。
オス幼羽の大きな特徴として、肩羽にオスエクリプス(成鳥)にはない淡色斑が強く出ることが挙げられる4)。
また、脇の羽はエクリプスよりもV字状に尖る傾向。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中
オス幼羽→第1回生殖羽移行中。
大部分が幼羽。
肩羽には幼羽に独特な斑が明瞭に出る。
同一個体。
成鳥と異なり、雨覆は一様な灰色ではなく、細くて白い羽縁が目立つ4)。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
最外三列風切がはっきりと黒い。
この部分はオスではどの年齢・羽衣においても黒く、メスでは黒くないことから性の識別に有効4)。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
肩羽や脇に残った旧羽に幼羽の特徴がはっきり出ている。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体、奥)。
幼鳥は成鳥よりも換羽が遅い傾向。
嘴の青灰色部も淡いことがある。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
肩羽の淡色斑、雨覆の羽縁が目立つことに注目。
オス幼羽→第1回生殖羽移行中(別個体)。
ほぼ生殖羽への換羽が完了し、成鳥と同じ見た目になりつつあるが、わずかに残った旧羽や雨覆の羽縁から幼鳥であると推測される。
中央尾羽もまだ短い。
メス生殖羽
メス生殖羽。
メス非生殖羽よりも全体に橙色みが強い4)。
三列風切では特に差が分かりやすく、生殖羽では非生殖羽にはない橙色斑が出る4)。
メス生殖羽(別個体)。
中央尾羽はオスほど長くならない。
なおメスの嘴は通常黒っぽいが、中にはオスと似た色彩の個体も見られる4)。
メス非生殖羽 / 非生殖羽→生殖羽移行中
メス。
大部分が橙色みの弱い非生殖羽。
最外三列風切が黒くないことでオスのエクリプスや幼羽と識別可能4)。
メス(別個体)。
生殖羽へ移行中。
メス(別個体)。
三列風切はまだ旧羽(非生殖羽)。
同一個体。
雨覆はオスのような灰色ではなく、褐色で羽縁が目立つ4)。
大雨覆先端の橙褐色もオスより淡い4)。
メス(別個体)。
生殖羽は非生殖羽より橙色みが強く、特に肩羽で差が分かりやすい。この個体も肩羽の一部に非生殖羽を残す。
三列風切も非生殖羽。
この個体は、大雨覆先端の橙褐色がメスにしては明瞭。
メス(別個体)。
メス幼羽
メス幼羽。
胸~腹にかけての細かい鱗状の模様が特徴的(雌雄共通)。
オス幼羽と似るが、最外三列風切が黒くないことで識別できる4)。
大雨覆先端の橙褐色帯はほとんどない個体が多い4)。
メス幼羽(別個体)。
嘴の色彩はメス幼鳥でもオス成鳥に近い場合があり、あてにならないことがあるため注意4)。
メス幼羽→第1回生殖羽移行中
メス幼羽→第1回生殖羽移行中。
大部分が幼羽だが、肩羽の橙色みが強い羽は生殖羽。
脇羽は幼羽で、成鳥の羽より良く尖る傾向。
メス雄化個体
メス雄化個体。
カモでは内分泌系の異常で外見がオスのようになるメス個体がしばしば観察され、オナガガモではその比率がおよそ0.07%との報告がある8)。
この個体もほとんどオスに近い外見になっている。
同一個体。
頭部の色が淡いこと、脇に不自然な横斑が現れることなどから雄化と推定される。
同一個体。
一般的に雄化個体はメスと体サイズは変わらず、オスよりも一回り小さく見えることが多い。
メス雄化個体(別個体)。
雄化の程度は個体によって様々である。
年齢・雌雄の識別
オナガガモはカモの中では、比較的年齢や雌雄の推定がしやすい。
それでも体色や換羽の進行には個体差があるため注意が必要である。
雌雄の識別
オスは年齢・性別にかかわらず最外三列風切が黒い4)。
メスでは稀に黒い個体もいるが、基本的に黒くないためこの部分を見ることで普通は識別可能である4)。
また嘴の青灰色部はオスの方が明瞭なことが多いが、メスにもオスのような嘴の個体が一定数いるため注意4)。
オスの年齢識別
秋の飛来当初には幼鳥は幼羽の個体、成鳥はエクリプスから生殖羽へ移行中の個体が多い。
幼鳥では、①肩羽に淡色の斑紋が強く出ること、②胸~腹部に小斑が整然と並ぶこと、③脇の羽の形が成鳥より尖ること、などが識別点となる4)。
なお、季節が進むにつれて生殖羽への換羽が進むと、次第に成鳥と幼鳥の区別は難しくなる。
そうした場合には雨覆の確認が有効で、幼鳥では小~中雨覆に淡色の羽縁が目立つ一方、成鳥では一様な灰色4)。
ただし幼鳥でも摩耗すると一様に見えることがあり、また成鳥でも摩耗により羽縁が淡色に見える場合があるため16)、特に距離がある場合は注意(下記比較画像参照)。
また、雨覆は姿勢によって見えないことも多い。
メスの年齢識別
メスについても秋の飛来当初は幼鳥は幼羽の個体、成鳥は非生殖羽から生殖羽へ移行中の個体が多い。
オスと同様、①胸~腹部に小斑が整然と並ぶこと、②脇の羽の形が成鳥より尖ること、などが識別点となる4)。
肩羽の年齢差はオスほど顕著ではない。
オスと同様、季節が進むにつれて生殖羽となり年齢の差は見えづらくなる。
なお雨覆は春までほぼ換羽せずに残るため、齢識別の参考になる。
成鳥では大雨覆先端の橙褐色帯が目立つが、幼鳥では細い白色帯となり、また幼羽の方が幅が狭く先が尖る傾向17)。
ただし雨覆には個体差が大きいため、他の部位と合わせて検討することが望ましい16)。
他種との識別
特に似た種はいないが、慣れないうちはメス(やオスのエクリプス、幼羽)の識別に戸惑うかもしれない。
ただ、体型や嘴の形・色、三列風切や肩・脇の色彩パターンなどを細かく見て行けば、種の識別で迷うことはすぐになくなる。
カモのメスの識別については別途ページを作ってまとめる予定である。
オス(生殖羽)には海外を含め特に似た種はいない。
分類
亜種は認められていない5)。
カモ科の属の再編とオナガガモ
オナガガモはコガモやマガモ、カルガモなどと共に、新マガモ属Anas(旧マガモ属からMareca、Spatula、Sibirionettaを分離して残った群)に属している5)。
この新マガモ属の中ではPintailsと呼ばれるグループに属し、南米のキバシオナガガモA. georgicaやホオジロオナガガモA. bahamensisなどと近縁である9,10)。
オナガガモの生態
食性と採食行動
オナガガモは主に植物食で、水面に浮遊する植物の種子や植物片を食べるほか、逆立ちして水底の水草、藻などを食べる4)。
時に水生生物も採食し、稀に潜水採餌を行う4)。
ノリの養殖場においてはヒドリガモと共にノリを採餌していた例が報告されている11)。
また、動物質としては大分県におけるホトトギスガイの報告例がある12)。
旧北区西部を対象としたレビューでは、スゲ属、シロザ、オオムギ、イバラモ属、タデ属、ヒルムシロ属、ギシギシ属、アブラガヤ属等の植物種がオナガガモの給餌対象として挙げられている13)。
オナガガモと餌付け
オナガガモは人による給餌への依存度が高いカモとして知られており、給餌場所では優占種となる傾向がある14)。
こうした給餌による鳥への負の影響を考慮し、給餌量を減らす取り組みも行われている15)。
いずれにしてもオオハクチョウなどへの給餌場所ではほぼ必ず見られる身近な存在のカモである。
個体数について
冬季のガンカモ調査におけるオナガガモの確認個体数は近年15~20万羽前後で推移している7)。
2021年度のガンカモ調査においては152,000羽が確認されており、潜水採餌ガモを含めたカモ類の中でマガモ、カルガモに次いで3番目に多い種となっている7)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
7)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
8)Chiba, A., & Honma, R. (2011). A study on the Northern Pintail (Anas acuta) females with masculinized plumage: their prevalence, morphological and behavioral traits, and reproductive organs. Journal of Ornithology, 152, 733-742.
9)Johnson, K. P., & Sorenson, M. D. (1999). Phylogeny and biogeography of dabbling ducks (genus: Anas): a comparison of molecular and morphological evidence. The Auk, 116(3), 792-805.
10)Rosinger, H. S., Kardailsky, O., Kennedy, M., Spencer, H. G., Steiner, F. M., Schlick-Steiner, B. C., … & Knapp, M. (2024). The radiation of Austral teals (Aves: Anseriformes) and the evolution of flightlessness. Zoological journal of the Linnean Society, 201(4).
11)三根崇幸, 森川太郎, & 増田裕二. (2019). 佐賀県ノリ養殖漁場におけるカモ類の採食が養殖ノリの短縮化に及ぼす影響. 佐賀県有明水産振興センター研究報告, 29, 112-114.
12)伊藤龍星. (2011). ノリ養殖漁場に飛来したカモ類の消化管内容物.
13)Dessborn, L., Brochet, A. L., Elmberg, J., Legagneux, P., Gauthier-Clerc, M., & Guillemain, M. (2011). Geographical and temporal patterns in the diet of pintail Anas acuta, wigeon Anas penelope, mallard Anas platyrhynchos and teal Anas crecca in the Western Palearctic. European Journal of Wildlife Research, 57, 1119-1129.
14)嶋田哲郎, 進東健太郎, & 藤本泰文. (2008). 伊豆沼・内沼におけるガンカモ類の給餌へのエネルギー依存率の推定. Bird Research, 4, A1-A8.
15)嶋田哲郎, & 藤本泰文. (2010). 伊豆沼・内沼におけるガンカモ類への給餌縮小の影響. 伊豆沼・内沼研究報告, 4, 1-7.
16)Mouronval, J.B. 2016. Guide to the sex and age of European ducks. Office national de la chasse et de la faune sauvage, Paris – 124 pages
17)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
編集履歴
2024/10/2 公開