昆虫 > トンボ目 > イトトンボ科 > カラカネイトトンボ属
その名の通り体に金属光沢を有するイトトンボの仲間。ミズゴケのある湿原に分布し、産地はかなり限られる。系統的・形態的にはキイトトンボ属に近く、他のイトトンボ科とは異なる特徴を有している。雌雄ほぼ同色だが、メスは老熟すると体色が顕著に変化する。
カラカネイトトンボの概要

出現時期 | : | 6月下旬-9月中旬3)。 |
希少度 | : | ★★★★(稀) |
全長1) | : | オス27-30㎜、メス26-29㎜ |
生息環境1) | : | 平地~山地のミズゴケ湿原 |
カラカネイトトンボの形態
オス
メス
識別
斑紋の似た種はおらず、識別は容易。
ただし老熟メスは体色が大きく異なるため注意。
現地では体サイズが小さいことにより、同所的に分布するオゼイトトンボとも一見して区別できる。
体色はアオイトトンボ類にも似るが、はるかに小型。
カラカネイトトンボの生態
繁殖行動
交尾は主に午前中に行われる1)。
交尾後はメス単独で、水面付近の枯死植物組織内に産卵する1)。
生息環境
寒冷地のミズゴケ湿原や、ミズドクサ・スゲ類等の湿生植物が繁茂する湿原に生息する2)。
幼虫はミズゴケの根際の水深の浅い泥中でよく見つかる3)。
保全
本種は氷河期の依存種と考えられており、世界的に絶滅が危惧されている4)。
ヨーロッパでは特に分布の西限に近い南部や西部で減少傾向が著しく、すでにベルギーやルクセンブルグ、スロバキアでは絶滅したという4)。
本種の環境選好性の高さが減少の大きな要因となっていることが考えられ、実際に筆者の訪れた生息地においても少しでも好適環境を離れると全く姿が見られなかった。
国内の分布域における産地も限られており、地域により保全活動が行われている例もある。
分類
本種の属するカラカネイトトンボ属Nehalenniaは、国内の属ではキイトトンボ属Ceriagrionと形態的に類似している1,2)。
これら2属は前額が丸く突出せず、触角の間に横方向の隆条がある点で日本産の他のイトトンボ科と異なる1,5)。
形態のみならず分子系統学的解析によっても、これら2属を含むグループは科に相当するレベルで残りのグループと差異があると考えられている2)。
なおカラカネイトトンボ属の6種のうち、5種は南北アメリカ大陸に分布しており、本種のみがユーラシア大陸に分布する5,6)。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
3)広瀬良宏・横山透・伊藤智 2007. 『北海道のトンボ図鑑』いかだ社.
4)Orioli, V., Gentili, R., Bani, L., & Aguzzi, S. (2021). Microhabitat selection and population density of Nehalennia speciosa Charpentier, 1840 (Odonata: Coenagrionidae) in a peripheral microrefugium. Wetlands, 41(7), 86.
5)Dijkstra, K. D., & Kalkman, V. J. (2012). Phylogeny, classification and taxonomy of European dragonflies and damselflies (Odonata): a review. Organisms Diversity & Evolution, 12(3), 209-227.
6)Paulson D., Schorr M., Deliry C 2022. 『World Odonata List 20220526』https://www2.pugetsound.edu/academics/academic-resources/slater-museum/biodiversity-resources/dragonflies/world-odonata-list2/ 2022/6/11閲覧
編集履歴
2024/4/4 公開