その名の通り幅広い嘴が特徴的なカモの仲間。この嘴は動物プランクトンを濾して食べるのに役立つと考えられている。集団でぐるぐると水面を旋回しながら採餌する行動が有名。形態の個体差が大きく、観察していて飽きないカモの一つである。
ハシビロガモの概要
希少度 | : | ★★(普通) |
全長1) | : | 43-56㎝ |
生息環境4) | : | 湖沼、池、河川、湿地など |
学名2) | : | clypeata…ラテン語「盾を持った」から |
英名5) | : | Northern Shoveler「北のハシビロガモ」(shoveler=シャベルで掬うもの) |
ハシビロガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
オス生殖羽
オス成鳥エクリプス
オス成鳥エクリプス→生殖羽移行中
メス生殖羽
メス成鳥非生殖羽
オス幼羽
オス幼羽→第1回生殖羽移行中
メス幼羽
年齢・雌雄の識別
生殖羽であれば雌雄の区別は容易だが、秋の渡来当初は一見よく似ている。
虹彩の色の明るさはオス成鳥>オス幼鳥≧メス成鳥>メス幼鳥4)。
雨覆の水色の鮮やかさはオス成鳥>オス幼鳥≒メス成鳥>メス幼鳥4)。
ただしそれぞれ個体差がある。
換羽前であれば三列風切のパターンでオス成鳥とそれ以外を見分けられる(下記画像参照)。
なお、メス非生殖羽やメス幼羽の三列風切はオス幼羽と似ており、地色の黒っぽさはメス幼羽<オス幼羽。
メスでは成鳥の嘴に黒点が多いことも目安になる(幼鳥では黒斑はないか小さく、あっても数は少ない)。
その他、脇や腹の幼羽が残っていればそれで見分けることができる。
緑色の翼鏡(次列風切の光沢部分)はオス成鳥では7-9枚、オス幼鳥では半分以上、メス成鳥では1-9枚、メス幼鳥では0-4枚とされている11)。

他種との識別
嘴の形状が極めて特徴的なため、他種との識別は容易。
分類
亜種はない(単型種)。
本種はマガモ属Anasに分類されてきたが、最近の分類ではAnas属が細分化され、本種はハシビロガモ属Spatulaに含まれるようになった5,12)。
ハシビロガモ属Spatulaは本種のほかシマアジ、ミカヅキシマアジなど10種からなる属となっている5)。
生態
食性
富栄養化が進みプランクトンの増えた水域ではハシビロガモの群れが水面をぐるぐると旋回しながら採餌している様子を観察することができる。
動画は大阪城公園の堀において水面濾過採餌を行うハシビロガモの群れである。
水流を作り出すことでプランクトンを集め、効率的に採餌しているものと考えられる。
生息環境
越冬期のガンカモ調査では、河川での確認割合が他の旧マガモ属と比較して明らかに少なく、代わりに人造湖における確認割合が地点数・個体数ともに7割近くに及んでいた8)。
これには上記のような富栄養化した水域で採餌するという生態が関係している可能性がある。
越冬個体数の推移
ガンカモ調査における越冬個体数は2000年ごろから15,000-20,000羽程度で推移しており、大きな増減はない8)。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
7)松原健司. (1996). ハシビロガモ Anas clypeata の嘴の形態と生息地選択性及び食性との関係. 我孫子市鳥の博物館調査研究報告, 5, 1-83.
8)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
9)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
10)鳥類繁殖分布調査会 2021. 『全国鳥類繁殖分布調査報告 日本の鳥の今を描こう 2016-2021年』
11)Mouronval, J.B. 2016. Guide to the sex and age of European ducks. Office national de la chasse et de la faune sauvage, Paris – 124 pages
12)日本鳥学会 2024. 『日本鳥類目録改訂第8版 掲載鳥類リスト』https://ornithology.jp/checklist.html 2024/11/26ダウンロード.
編集履歴
2024/3/9 公開
2024/3/10 一部換羽に関わる部分をご指摘いただき修正。オスの三列比較画像を差し替え。
2024/3/11 生息環境、個体数の推移に関する記述を追加。
2024/11/12 メス成鳥非生殖羽、オス幼羽、メス幼羽の写真を追加。性齢識別画像の追記。
2024/11/28 分類の項をアップデート。