分布1,2,3):本州(青森県以南)、四国、九州(~屋久島、種子島)。海外では朝鮮半島、中国、ロシア(極東)。
黒いトンボとしてなじみの深いカワトンボの仲間。夏に流水域で見られるトンボの代表種である。本種の翅にはほとんどのトンボにある「縁紋」がないのが大きな特徴。
ハグロトンボの概要
出現時期 | : | 5月中旬-10月中旬2)。近畿では6-7月に多い2)。時に4月や11~12月1)。幼虫越冬。 |
希少度 | : | ★★(普通) |
全長1) | : | オス57-68㎜、メス54-66㎜ |
生息環境1,3) | : | 平地~丘陵地の河川、用水路。抽水植物や沈水植物が繁茂する緩やかな清流。 |
ハグロトンボの形態
オス
翅は全体が黒い。
腹部背面は金緑色。
オス(別個体)。
アオハダトンボのような翅の金属光沢はない。
オス(別個体)。
本種は雌雄ともに縁紋も偽縁紋もない国内で唯一のトンボである。
翅を開いたオス。
前翅・後翅ともに全体が黒い。
メス
メスはオスよりも翅の褐色みが強い。
アオハダトンボなどと異なり、偽縁紋はなく翅全体が黒褐色。
偽縁紋についてはアオハダトンボのページを参照。
メス(別個体)。
腹部先端の形状がオスと異なる。
識別
希少種のアオハダトンボと似る。
詳細はアオハダトンボのページを参照。
他の本土産カワトンボ科とは翅の色から容易に識別可能。
生態
産卵
メスは単独で水中に沈んだ植物組織内に産卵する1)。
集団産卵や潜水産卵も行う1)。
オスの求愛
本種のオスはアオハダトンボなどのように腹部先端腹面をメスに見せつけて求愛することはせず、腹部先端腹面の色も白くない1,2,4)。
代わりにホバリングや、後翅を水面に立てるなどしてメスに求愛する1,2,4)。
求愛から交尾に至るまでの行動も異なっており、アオハダトンボのオスがメスの偽縁紋をめがけてアプローチするのに対し、ハグロトンボではメスの翅の付け根付近にとまろうとする4)。
減少した事例
本種は分布も広い普通種であるが、地域によっては激減した例がある。
東京都の区部で現在でも絶滅危惧II類に指定されているほか5)、神奈川県でも要注目種に指定されている6)。
東京都では河川改修や水質汚染で高度成長期以降激減したが、水質改善によりかなり復活してきている5)。
神奈川県でも横浜市や川崎市では一時期絶滅したとされ、横浜市では1980年から20年間記録がなかったが、2000年以降記録が増えてきている7)。
本種は幼虫期から成虫期まで様々な環境を利用することから、都市河川の環境を評価するのに適しているとの指摘もある7)。
文献
1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)山本哲央・新村捷介・宮崎俊行・西浦信明 2009. 『近畿のトンボ図鑑』いかだ社.
3)川合禎次・谷田一三 2018. 『日本産水生昆虫 第二版: 科・属・種への検索』東海大学出版部.
4)Miyakawa, K. (1982). Reproductive behaviour and life span of adult Calopteryx atrata Selys and C. virgo japonica Selys (Odonata: Zygoptera). Advances in Odonatology, 1(1), 193-203.
5)東京都 2020. 『東京都レッドデータブック』https://tokyo-rdb.metro.tokyo.lg.jp/index.php 2024年2月23日閲覧.
6)神奈川県 2006. 『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』https://nh.kanagawa-museum.jp/research/archives/reddata2006/index.html 2024年2月23日閲覧.
7)板川暢, & 一ノ瀬友博. (2018). 都市中小河川のハグロトンボ (Calopteryx atrata) の移動距離に影響を及ぼす要因. ランドスケープ研究 (オンライン論文集), 11, 32-38.
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2024/2/23 公開