分布1,3):稀な冬鳥として全国から記録があるが、中国地方以西の記録が多い1)。国外ではユーラシア大陸の中緯度地方で局地的に繁殖する。日本周辺ではモンゴル、トランスバイカリア、アムール、中国東北部などで繁殖し、インドや中国南部などで越冬する3)。
その名の通り赤い体色が特徴のツクシガモの仲間。大陸系の稀な冬鳥で、特に西日本で記録が多い。雌雄ほぼ同色だが、頭部の色彩が異なるほか、オスには繁殖期になると黒い首輪が現れる。
アカツクシガモの概要
希少度 | : | ★★★★(稀) |
全長1) | : | 63-66㎝ |
生息環境3) | : | 湖沼、広い農耕地、干潟など |
学名2) | : | ferruginea…ラテン語”ferrugineus”(赤さび色の)から |
英名5) | : | Ruddy Shelduck「赤いツクシガモ」 |
アカツクシガモの形態
成鳥
メス成鳥。
カモ類とガン類との中間的な形態をしている6)。
雌雄ほぼ同色だが、①オスは繁殖期になると黒い首輪ができる1,3,4)、②メスの嘴基部付近の羽毛は白色だがオスでは下部が橙褐色になる4)、ことにより識別可能。
同一個体。
成鳥は幼鳥(幼羽~第一回繁殖羽)とよく似るが、大雨覆を確認することで識別できる。
すなわち、成鳥の大雨覆は白いが、幼鳥では灰褐色である4,6)。
年齢の識別
幼羽の多くは春先までに換羽するが、上述した大雨覆の特徴は変わらないため越冬シーズンを通して有効4)。
早い時期であれば、肩羽や脇に褐色の幼羽が目立つため一見して幼鳥と判断できる4,6)。
また、ツクシガモと同じように三列風切がひどく摩耗している場合も幼鳥の可能性が高いと考えられる。(ただし春までに新羽に換羽する)。
小雨覆や中雨覆は幼羽では先が灰色だが、越冬中に摩耗して白く見えるようになる4)。
雌雄の識別
前述のように①オスには繁殖期に黒い首輪があること、②嘴基部付近の羽毛の色が異なること、により識別できる。
黒い首輪は越冬期には分かりづらい場合があるため注意が必要。
またオスはメスより、成鳥は幼鳥より大きい傾向があるが4)、オーバーラップがあり参考程度にとどめる必要がある。
識別
特に似た種はいない。
近縁のツクシガモは明らかに体色が異なる。
分類
亜種はない(単型種)。
なお、本種の属するツクシガモ属Tadornaは他のカモ亜科(ハジロ属やマガモ属を含む)とは系統的に離れており、オシドリ属やバンケン属と共に独立したツクシガモ亜科Tadorninaeとして扱う見解もある7)。
生態
主に海岸で見られるツクシガモと異なり、本種は海岸だけでなく湖沼や農耕地などの内陸部にも見られる。
写真の個体は農耕地でマガンの群れに混じって見られた。
雑食性で青草、雑穀やエビ、バッタ、小魚などを食べるとされる6)。
同一個体。
朝、コハクチョウやマガンとともに大きな川の中州にあるねぐらで見られた。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
7)Liu, G., Zhou, L., Li, B., & Zhang, L. (2014). The complete mitochondrial genome of Aix galericulata and Tadorna ferruginea: bearings on their phylogenetic position in the Anseriformes. PLoS One, 9(11), e109701.
編集履歴
2024/2/9 公開