分布3,7,10,11):冬鳥として主に九州北部に飛来。西日本各地でも少数が越冬し、西ほど個体数が多いが、北は北海道7)まで記録がある。国外ではユーラシア大陸に広く分布し、日本周辺では中国東部や朝鮮半島で越冬する3)。
干潟のある海岸に冬鳥として渡来するカモの仲間。その名の通り九州北部で多く見られ、有明海では大きな群れを観察することができる。雌雄ほぼ同色だが、繁殖期のオスには嘴基部に目立つコブがあるため識別が可能である。
ツクシガモの概要
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
全長1) | : | 58-67㎝ |
生息環境3) | : | 干潟や浅瀬のある海岸。 |
学名2) | : | tadorna…イタリア語”Tadorne”(ツクシガモ)から |
英名5) | : | Common Shelduck「普通のツクシガモ」 |
ツクシガモの形態
※この項の記述は少ない観察経験に基づいており、誤りや不正確な表現を含む可能性があります。
その点ご了承の上ご覧ください。
成鳥
オス成鳥。
本種は雌雄ほぼ同色。
オスは繁殖期になると嘴基部に大きなコブができるが、越冬地では目立たない場合も多く雌雄の識別は難しい4)。
メス成鳥はオスと比べて①嘴基部にコブはなく、②胸の栗色の帯は幅が狭く色が淡い傾向がある6)。
ただし越冬地ではこれらの特徴が分かりづらく、識別が難しいことも多い。
成鳥。
三列風切が摩耗していないことが成鳥の特徴のひとつ6)。
ただし飛翔時の翼のパターンを確認するのが確実である。
成鳥。
飛翔時に翼の色を確認すれば、最も確実に幼鳥と成鳥を識別できる4,6)。
幼鳥(第1回冬)
幼鳥も雌雄の識別は難しいが、コブがあればオス。
ただしコブがなくてもメスとは限らないため注意4)。
三列風切が激しく摩耗している場合は幼鳥の可能性が高いと考えられる(ただし雌雄差は不明)。
幼鳥は飛翔時に風切先端の白色部が目立つため、成鳥と容易に識別可能4,6)。
ただ飛んでいないと遠目には判断が難しい。
年齢の識別
幼鳥(第1回冬)の風切先端が白いことが最も確実な識別点4,6)。
雨覆の色も異なっており、姿勢によっては飛翔時以外でも確認可能6)。
また三列風切が淡色で摩耗しているのが幼鳥6)(雌雄差は不明)。
雌雄の識別
オスにはコブがあることが有名であるが、越冬地である日本においてはコブがよく発達した個体を観察する機会は少ない。
幼鳥や非生殖羽ではオスでもコブがほとんどない場合もあり、メスだと断言することはかなり難しい。
ただしオスはメスよりも明らかに体サイズが大きいため、雌雄が並んでいれば識別の助けになる場合がある。
また頭部の嘴基部周辺に白い羽毛が現れる場合はメスの可能性が高いといわれるが、オス幼鳥にも時に見られるようで決定打とはならない模様(Baker4)には言及がない)。
また嘴の色もオスのほうが赤みが強くなるが6)、非繁殖期ではこれも曖昧であり難しい。
成鳥において、最外三列風切の外弁が濃い栗茶色で内弁が白いのがオスであり、外弁が薄い栗茶色で内弁にも灰褐色の模様が入るのがメスであるとされる4)。
識別
特に似た種はいない。
近縁のアカツクシガモは明らかに体色が異なる。
分類
亜種はない(単型種)。
なお、本種の属するツクシガモ属Tadornaは他のカモ亜科(ハジロ属やマガモ属を含む)とは系統的に離れており、オシドリ属やバリケン属などと共に独立したツクシガモ亜科Tadorninaeとして扱う見解もある9)。
生態
食性
ツクシガモは干潟や浅瀬のある海岸で見られる。
フランスにおける研究8)では、干潟の泥の表層2㎝を漉し取り、主にミズツボ科の小さな貝類であるHydrobia ulvaeを中心に摂食していたという。
糞の調査の結果、他にも二枚貝や有孔虫、カイアシ類など小型のベントスを食べていたことが分かっている。
日本では有明海の干潟において多くの個体が見られ、同様に小型の貝類などを食べていることが推測される。
文献
1)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
2)James A. Jobling 2010. Helm Dictionary of Scientific Bird Names. Christopher Helm.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2023. IOC World Bird List (v13.2). doi : 10.14344/IOC.ML.13.2.
6)氏原巨雄・氏原道昭 2015. 『決定版 日本のカモ識別図鑑』誠文堂新光社.
7)平田和彦, & 倉沢康大. (2008). 北海道渡島半島におけるツクシガモの越冬記録. Strix: journal of field ornithology= 野外鳥類学論文集, 26, 237-239.
8)Viain, A., Corre, F., Delaporte, P., Joyeux, E., & Bocher, P. (2013). Numbers, diet and feeding methods of Common Shelduck Tadorna tadorna wintering in the estuarine bays of Aiguillon and Marennes-Ol. Wildfowl, 61(61), 121-141.
9)Liu, G., Zhou, L., Li, B., & Zhang, L. (2014). The complete mitochondrial genome of Aix galericulata and Tadorna ferruginea: bearings on their phylogenetic position in the Anseriformes. PLoS One, 9(11), e109701.
10)環境省 2022. 第53回ガンカモ類の生息調査 都道府県別羽数 確定値. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2024年2月5日閲覧.
11)環境省 2023. 第54回ガンカモ類の生息調査 都道府県別羽数 確定値. https://www.biodic.go.jp/gankamo/gankamo_top.html 2024年2月5日閲覧.
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2024/2/5 公開