分布1,3,10):ほとんどの個体が宮城県に冬鳥として渡来する。北海道では旅鳥。関東以西では非常に少ない。海外では北米北部からアリューシャン列島、カムチャツカで繁殖し、北米西部からメキシコ北部で越冬する3)。
頬にシジュウカラに似た白斑を持つガンの仲間。繁殖地へのキツネの導入により絶滅の危機に瀕していたが、保護の努力によって今では普通に見られる鳥となった。
シジュウカラガンの概要
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
全長2) | : | 67㎝ |
生息環境3) | : | 湖沼や広い農耕地 |
英名 | : | Cackling Goose「甲高く鳴くガン」 |
シジュウカラガンの形態
中~小型のガン類。雌雄同色。
頬から喉にシジュウカラに例えられる白斑がある。
また、亜種シジュウカラガンでは頸の根元に白い首輪状の白斑がある。
本項の掲載個体はすべて亜種シジュウカラガンと考えられるもの。
冬羽
頬と頸の白斑が特徴的。
別個体。
首輪が太く見える個体。
首輪には個体差があり、また幼鳥では目立たない場合もある。
別個体。
白い首輪が明瞭であること、胸の色が比較的暗色であることなどは本亜種(亜種シジュウカラガン)の特徴。
別個体。
翼はほぼ全体暗褐色で目立つ模様はない。
別個体。
頬の白斑はふつう喉で分断される。
ヒメシジュウカラガンやチュウショウカナダガン、チュウカナダガンではこの部分が繋がる傾向。
別個体。
飛翔する群れ。
マガンの群れに混じって採餌するシジュウカラガン。
亜種シジュウカラガンは亜種マガンよりも小さい。
幼羽
秋には幼羽を残した個体が観察される。
ただし本種はマガンなどよりも早い段階で第1回冬羽に換羽し、成鳥と区別がつかなくなる。
単独で見られた幼鳥。
肩羽~雨覆のほとんどは、幅が狭く先が丸い幼羽と考えられる。
同一個体。
幼鳥では首輪が成鳥ほど目立たない個体が多い。
同一個体。
頬の白斑は喉で途切れている。
亜種によってはこの部分が繋がる。
同一個体。
胸の羽毛は羽軸に沿って暗色であり、幼羽と考えられる。
同一個体。
頬の白斑は喉で途切れている。
亜種によってはこの部分が繋がる。
同一個体。
飛翔時には上尾筒・下腹~下尾筒の白色が目立つ(成幼共通)。
識別
かつて同種とされたカナダガンの各亜種との識別がしばしば問題となる。
他に似た種はいない。
カナダガン、シジュウカラガンの各亜種については下記「亜種について」の項を参照。
年齢の識別
白い首輪は幼羽(生まれてすぐの羽衣)にはない。
生まれた年の冬(第1回冬羽)では首輪が成鳥よりも不明瞭な場合が多いようである。
ただし亜種ヒメシジュウカラガン、亜種チュウショウカナダガンでは成鳥にもふつう首輪がない。
以下に別種ではあるが、カナダガンにおける第1回冬羽と成鳥の羽衣の違いを示す。
シジュウカラガンにもある程度当てはまると考えられる。
ただし本種は換羽が早く、春までに成鳥と区別がつかなくなる個体も多いと考えられる。
第1回冬羽(カナダガン) | 成鳥(カナダガン) | |
---|---|---|
雨覆 | 幼羽を残す。幼羽は幅が狭く先が丸い。淡色の羽縁が波打って見える。 | 幅が広く先が四角い。淡色の羽縁は一直線につながって見える。 |
胸 | 幼羽を残す。幼羽は羽軸に沿った部分が暗色。白いサブターミナルバンドは無い。 | 幼羽のような羽軸に沿った暗色部分はない。白いサブターミナルバンドがあり、不規則な横縞模様に見える。 |
尾羽 | 多くの場合幼羽を残す。幼羽は先で急に狭くなり、羽軸が裸出して切れ込んで見える(notched)。 |
第2回冬羽はほぼ成鳥と見分けがつかないが、中には雨覆に旧羽を残す個体が少数見られる4)。
亜種について
IOC ver.125)においては以下の亜種を認めている。
形態の似るカナダガンの亜種も併せて示す。
日本で見られるものは大部分が亜種シジュウカラガンで、ヒメシジュウカラガンも稀に見られる。
また、チュウショウカナダガンと思われる個体がしばしば観察されている。
種カナダガンでは、チュウカナダガンが北海道より報告されている。
また、オオカナダガンが外来種として関東平野を中心に定着していたが、現在では根絶されている(後述)。
なお、チュウショウカナダガンについて「アラスカシジュウカラガン」と呼ばれている場合があるようだが出典は不明。
シジュウカラガンの亜種
亜種名 | 繁殖分布 | 越冬分布 |
---|---|---|
シジュウカラガンB. h. leucopareia | ベーリング島、千島列島北部、アリューシャン列島 | 日本、アメリカ西部 |
ヒメシジュウカラガンB. h. minima | アラスカ西部 | カナダ南西部、アメリカ西部 |
チュウショウカナダガンB. h. taverneri | アラスカ北東部、カナダ北部 | アメリカ南西部、メキシコ |
コカナダガンB. h. hutchinsii | カナダ北中部、グリーンランド | テキサス、メキシコ |
カナダガンの亜種
亜種名 | 繁殖分布 | 越冬分布 |
---|---|---|
クロカナダガンB. c. occidentalis | アラスカ南西部 | |
オオクロカナダガンB. c. fulva | アラスカ南部、ブリティッシュコロンビア西部 | |
オニカナダガンB. c. maxima | カナダ南中部 | |
チュウカナダガンB. c. parvipes | アラスカ中部~カナダ中部 | アメリカ南中部 |
オオカナダガンB. c. moffitti | カナダ南西部、アメリカ北西部 | アメリカ西部~メキシコ北部 |
ナイチカナダガンB. c. interior | カナダ南中部 | アメリカ東部 |
カナダガンB. c. canadensis | カナダ東部 | アメリカ東部、南東部 |
国内で観察例のある亜種の識別
大きさ順に表にまとめた。
このうちチュウカナダガンとオオカナダガンは種カナダガンに属する。
体長が大きいものほど嘴は大きく、首も長くなる。
ただし個体差もあるため総合的な判断が必要である。
ヒメシジュウカラガン | シジュウカラガン | チュウショウカナダガン | チュウカナダガン | オオカナダガン | |
---|---|---|---|---|---|
大きさ | 最も小さい | マガンより小 | マガンくらい | マガンより大 | オオヒシクイくらい |
白い首輪 | 普通ない | 成鳥にはある | 普通ない | ない | ない |
頬の白斑 | 顎で分断~繋がる | 普通顎で分断 | 顎で繋がることが多い | 普通顎で繋がる | |
胸の色 | 暗褐色、紫を帯びる | やや淡い | 淡い | 非常に淡い | 非常に淡い |
嘴 | 最も小さい | 嘴峰から前頭部への角度が平坦 | マガン大 嘴峰から前頭部への角度が急 |
亜種チュウショウカナダガンtaverneri
亜種チュウショウカナダガンと考えられる個体。
単独でマガンの群れに混じって見られた。
同一個体。
白い首輪がほぼないこと、胸の色が淡いことが本亜種の特徴。
頸も亜種シジュウカラガンより長く、太い。
同一個体。
頬の白斑は喉で完全に分断されず、繋がっていることが多い(ただし例外がある)。
同一個体。
マガンとほぼ同大。
チュウカナダガンとはよく似るが、本亜種の方が体サイズは小さく、胸の色はやや暗色。
またチュウカナダガンでは頬の白斑はほぼ常に喉で完全に繋がる。
別個体。
この個体もマガンの群れに単独で混じって行動していた。
同一個体。
画像では分かりにくいが、マガンとほぼ同大。
同一個体。
白斑の分断の有無を確認する前に飛び去ってしまった。
亜種ヒメシジュウカラガンminima
ヒメシジュウカラガンについては「首輪がない」との特徴から、亜種シジュウカラガン幼鳥との誤認が多いと考えられ、注意が必要である。
識別においては以下のような特徴を総合的に判断する必要がある7)。
- 成鳥でも白い首輪がない。
- 頸、嘴がシジュウカラガンより短い。
- 胸が紫色を帯び、濃色に見える。
- 亜種シジュウカラガンよりも小型。
- 頭の形が丸い。
特定外来生物オオカナダガンの根絶について
(※オオカナダガンはシジュウカラガンとは別種のカナダガンの1亜種であるが、ここにまとめて紹介する。)
国内ではカナダガンの亜種オオカナダガンが外来種として定着していた。
静岡県、神奈川県、山梨県、茨城県では繁殖が確認され、シジュウカラガンとの交雑や農業被害が懸念されることから特定外来生物に指定されて駆除が行われてきた8)。
その結果、2015年に確認されているすべての個体について捕獲が完了し、特定外来生物としては初めて根絶に成功したとされている9)。
シジュウカラガンの生態
食性はおもに植物質と考えられる。
越冬地では他のガン類と混じって採食している様子が観察される。
形態の項の幼鳥と同一個体。
カラスノエンドウを食べている。
越冬地でねぐらに集まってきたガンの群れ。
マガンが主体だがシジュウカラガンも多く見られた。
オオハクチョウ、ハクガンも写っている。
個体数の増加について
シジュウカラガンはかつて絶滅寸前の状態にあった。
繁殖地である千島列島が日本領だったころ、毛皮用にキツネを野外に放ったことにより個体数が激減し、北米・日本共に越冬地でほとんど観察されなくなってしまう3,11)。
その後、残された個体の人工繁殖・再導入が行われて個体数は徐々に回復し、1979年に790個体だった繁殖地のシジュウカラガンは1990年には7,000羽まで、1996年には20,000羽にまで増加した11)。
日本国内の越冬数もそれに応じて増加し、2021年度のガンカモ調査では宮城県で1500羽以上が観察されている12)。
文献
1)2021年度モニタリングサイト1000 ガンカモ類調査2020/21年 調査報告書. 環境省自然環境局生物多様性センター 2021. https://www.biodic.go.jp/moni1000/findings/reports/
2)真木広造・大西敏一・五百澤日丸 2014. 『決定版 日本の野鳥650』平凡社.
3)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
4)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
5)Gill F, D Donsker & P Rasmussen (Eds). 2022. IOC World Bird List (v12.1). doi : 10.14344/IOC.ML.12.1.
6)佐藤ひろみ 2018. 2015年秋に北海道に飛来した野生のチュウカナダガンBranta canadensis parvipesの記録. 日本鳥学会誌67(1):143-147.
7)雁を保護する会 2004. ガン類調査マニュアル カリフォルニアに現れるカナダガンの亜種に付いての野外での特徴. http://www.jawgp.org/manual/bcaidfj.htm 2022年2月20日閲覧.
8)国立環境研究所 侵入生物データベース オオカナダガン. https://www.nies.go.jp/biodiversity/invasive/DB/detail/20430.html 2022年2月20日閲覧.
9)環境省 2015. 報道発表資料 特定外来生物カナダガンの国内根絶について(お知らせ). https://www.env.go.jp/press/101789.html 2022年2月20日閲覧.
10)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
11)Mini, A. E., Bachman, D. C., Cocke, J., Griggs, K. M., Spragens, K. A., & Black, J. M. (2013). Recovery of the Aleutian Cackling Goose Branta hutchinsii leucopareia: 10-year review and future prospects. Wildfowl, 61(61), 3-29.
12)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
編集履歴
2022/2/20 公開
2024/3/3 分布情報を追加、分布図を更新
2024/10/21 形態の項に画像、解説を追加。チュウショウカナダガンの画像、解説を追加。「個体数の増加について」の項に解説と文献を追加。