コクガン Branta bernicla

野鳥 > カモ目 > カモ科 > コクガン属

宮城県南三陸町 2023/12/10
※分布図は目安です。

分布2,4,5,9,10):冬鳥として主に北海道~東北の沿岸に局所的に飛来。2021年度ガンカモ調査では北海道、青森、岩手、宮城の各道県で全体の98.6%の個体が記録された9)。関東以西にも少数が飛来するが、西ほど稀10)。海外ではユーラシア大陸、北米、グリーンランドのツンドラ地帯で繁殖し、ヨーロッパや北米の沿岸地方で越冬する4)

黒い体と白い首輪が特徴的なガンの仲間。日本のガン類では唯一海岸に生息し、アマモなどの海草やアオサなどの海藻類を食べる。冬鳥として主に東北の太平洋岸に渡来し、関東以西では見る機会は少ない。

コクガンの概要

希少度★★★(やや稀)
全長2)61㎝
生息環境3)内湾、岩礁海岸
英名1,3)Brent Goose / Brant Goose

コクガンの形態

成鳥

宮城県南三陸町 2023/12/10

雌雄同色。
体は大部分が黒く、頸には首輪状の白斑がある。

宮城県南三陸町 2023/12/10

別個体。
頸の白斑は背側で分断される。

宮城県南三陸町 2023/12/10

別個体。
低い姿勢のため頸の白斑が細く見える。
腹は黒く、下尾筒周辺は白い。

三重県松阪市 2015/2/16

成鳥の群れ。
遠くからでも年齢が比較的判断しやすい。

第1回冬羽

兵庫県明石市 2017/1/22

幼鳥(第1回冬羽)は雨覆の羽縁の淡色が目立つ。
また、首輪状の白斑がまだない個体もみられる。
大部分の雨覆は冬の間換羽しないため6)、越冬シーズンを通して年齢の判断は容易。

兵庫県明石市 2017/1/22

同一個体。
上面の羽縁が目立つことが分かる。
飛翔時には上尾筒・下尾筒の白色が目立つ(成幼共通)。

年齢について

第1回冬羽では上述の通り羽縁が淡色で目立つ。
また、首輪状の白斑は幼羽にはなく、現れる時期には個体差がある。そのため、第1回冬羽の中には首輪がない個体も見られる6)

第2回冬羽はほぼ成鳥と見分けがつかないが、中には中雨覆の内側に旧羽を残す個体が少数見られる6)

識別

国内には識別を誤るような似た種はいない。

亜種について

以下の3亜種が認められている1,6)
日本で記録があるのは1亜種のみ。
亜種コクガンはBlack Brantと呼ばれ、体色は最も黒っぽい。
各亜種の色彩はCollins Bird Guide7)に図示されている。

亜種名繁殖分布越冬分布
コクガンB. b. nigricansシベリア北東部、アラスカ、カナダ北西部東アジア、北米西部
B. b. berniclaロシア北西部~北中部ヨーロッパ北西部
B. b. hrotaカナダ北東部、グリーンランド、スピッツベルゲンアメリカ北東部、アイルランド、イギリス、ヨーロッパ北西部

亜種コクガンと他2亜種とはそれぞれ交雑例が知られているとのこと6)
なお、日本産鳥類目録第7版8)では亜種コクガンはB. b. orientalisとされているが、IOCではnigricansに含めている。

コクガンの生態

アマモを採食 宮城県南三陸町 2023/12/10

コクガンは日本産ガン類では唯一、海岸を主な生息環境とする種である。
食性は草食で、越冬数の多い地域では海草のアマモが主食となっている。
また、越冬数の少ない地域ではアオサ、ヒトエグサなどの藻類を中心に採食しており、十分量のアマモ群落があることが本種の越冬にとって非常に重要であるとされている5)

宮城県南三陸町 2023/12/10

コクガンは食性の共通するオオバン(写真手前)と共に採食している姿がよく観察される。
コクガンは潜水することができないため、オオバンが深い場所から潜って取ってきた植物質を水面上で奪い取ることがある11)。いわゆる労働寄生の一例といえる。

個体数について

日本国内では秋に最も個体数が多く、野付半島を中心に全国で8600羽以上が記録された年もある5)
一方、国内の越冬個体数は2500羽程度とされ、残りの群れがどこで越冬しているかは不明5)

昆陽池のコクガン

兵庫県伊丹市 2014/11/29

兵庫県の市街地にある昆陽池には、野外で飼い慣らされているコクガンが1羽おり人気を博していた。
どこかで保護された個体との噂が出回っていたが、詳細は不明。
頸の白斑が小さかったり背面の色が淡かったりと、どちらかというと基亜種berniclaに近いような気がするが、どこから来たのだろうか。

文献

1)Gill F, D Donsker & P Rasmussen  (Eds). 2022. IOC World Bird List (v12.1). doi :  10.14344/IOC.ML.12.1.
2)真木広造・大西敏一・五百澤日丸 2014. 『決定版 日本の野鳥650』平凡社.
3)桐原政志・山形則男・吉野俊幸 2009. 『日本の鳥550 水辺の鳥 増補改訂版』文一総合出版.
4)榛葉忠雄 2016. 『日本と北東アジアの野鳥』生態科学出版.
5)藤井薫 2017. 日本におけるコクガンの個体数と分布(2014-2017 年). Bird Research 13:69-77.
6)Jeff Baker 2016. Identification of European Non-Passerines. Second Edition. British Trust for Ornithology.
7)Lars Svensson, Killian Mullarney, Dan Zetterström 2009. Collins Bird Guide 2nd Edition. HarperCollins Publishers.
8)日本鳥学会 2012. 『日本鳥類目録 改訂第7版』 掲載鳥類リスト.http://ornithology.jp/katsudo/Publications/Checklist7.html
9)環境省自然環境局生物多様性センター 2023. 第 53 回ガンカモ類の生息調査報告書.
10)バードリサーチ・日本野鳥の会 2023. 『全国鳥類越冬分布調査報告 2016-2022 年』
11)嶋田哲郎, 呉地正行, 鈴木康, 宮林泰彦, & 樋口広芳. (2013). 東日本大震災がコクガンの越冬分布に与えた影響. 日本鳥学会誌62(1), 9-15.

編集履歴

2022/2/13 公開
2024/3/3 分布情報を追加、分布図を修正
2024/10/20 形態・生態の項目に写真を追加/差替、解説を加筆