ホソミオツネントンボ Indolestes peregrinus

昆虫 > トンボ目 > アオイトトンボ科 > ホソミオツネントンボ属

京都府京丹後市(成熟オス) 2016/6/8
※分布図は目安です。

分布1):東北~九州、種子島。北海道、南西諸島では単発的な記録のみ。国外では朝鮮半島、中国。

東北~九州に分布するアオイトトンボの仲間で、成虫で越冬することが知られている。オツネントンボとは別属で、胸部の模様や縁紋の重なり方などで識別することができる。温度に応じて可逆的に体色を変化させるというユニークな特徴を持つ。

ホソミオツネントンボの概要

出現時期1)成虫越冬のためほぼ周年見られる(ただし年1化、羽化は6-8月)
希少度★★(普通)
全長1)オス35-42㎜、メス33-41㎜
生息環境1)平地~山地の抽水植物の繁茂する池沼、湿地、水田、緩やかな河川など

ホソミオツネントンボの形態

オス

宮崎市 2017/4/17

成熟したオスは写真の個体のように体が青くなる。
越冬時は淡褐色で、春になると体色が青く変わる。
繁殖期には温度によって可逆的に色を変えているという2)

メス

京都市左京区 2017/10/30

メスには成熟すると水色になる個体と、淡褐色のままの個体がいる。
写真は越冬中の未成熟のメス。

京都市左京区 2017/10/30

同一個体。
雌雄問わず、胸部側面の濃色部が斑紋状になる。

京都市左京区 2017/10/30

同一個体。
翅はやや褐色みを帯びる場合がある模様(個体による)。

識別

オツネントンボとの識別

オツネントンボは北海道~九州北部に分布しており、ホソミオツネントンボとは別のオツネントンボ属に属する。
体形が似るが、注意して細部を確認すれば問題なく同定できる。
主な違いは以下の通りである。

  • 胸部側面の模様が異なる(下記参照)。
  • 翅を閉じて静止している際、前翅と後翅の縁紋(色のついた部分)がずれるのがオツネントンボ、重なるのがホソミオツネントンボである(下記参照)。
  • ホソミオツネントンボのオス、および一部のメスは成熟すると体全体が青くなる。オツネントンボはほぼ褐色のままである。
オツネントンボ(未熟オス)

オツネントンボの胸部側面の濃色部は直線的で斑紋状にならない。

ホソミオツネントンボ(未熟メス)

ホソミオツネントンボの胸部側面の濃色部は斑紋状になる。

オツネントンボ

オツネントンボの前翅・後翅の縁紋はずれる。

ホソミオツネントンボ

ホソミオツネントンボの縁紋はすべて重なる。

アオイトトンボ属との識別

同じアオイトトンボ科に属するアオイトトンボ属(アオイトトンボ、オオアオイトトンボなど)は、静止時に翅を開いてとまることから識別できる(ホソミオツネントンボは翅を閉じてとまる)。
体形や体色も異なるため、慣れれば一見して区別できる。

イトトンボ科などとの識別

イトトンボ科など他の均翅亜目のトンボは体形が似る場合があるが、体色、胸部側面の模様などを確認すれば識別できる。
より専門的には翅脈を確認することで科の同定が可能である。

ホソミオツネントンボの生態

成虫越冬するトンボ

京都市左京区 2017/10/30

ホソミオツネントンボは成虫で越冬することが知られているが、オツネントンボよりも寒さに弱いという1)
成虫越冬のトンボはごく少数で(多くの種は卵か幼虫)、日本には3種(オツネントンボ、ホソミオツネントンボ、ホソミイトトンボ)が知られるのみ。
この写真は「形態」の項と同一のメス個体で、コケと樹皮に紛れて目立たない場所に越冬していた。
越冬時に体色が褐色なのは、捕食されにくくするためである可能性がある。

可逆的な体色変化

ホソミオツネントンボは繁殖期、一日の中で外気温の変化に応じて褐色になったり青色になったりを繰り返す場合があるようだ。
茨城県での室内実験2)では、雌雄ともに20℃以上に温度を上げると青色化がみられ、10℃まで温度を下げると褐色化した。
また、青色化は8-20分で完了するのに対し、褐色化には6-12時間を要したという。
これらの体色変化の生態的意義についてははっきりとは分かっていない。

文献

1)尾園暁・川島逸郎・二橋亮 2021. 『日本のトンボ 改訂版』文一総合出版.
2)長谷部有紀 2020. ホソミオツネントンボの可逆的体色変化 ‐青色と褐色の異なる役割‐. つくば生物ジャーナル 卒業研究発表会要旨集 19:56.

編集履歴

2021/9/6 公開