植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > ザゼンソウ属
分布1,2,4):北海道、本州(鳥取県以東)。海外では朝鮮半島、アムール、ウスリー、サハリン1)。
寒冷地の湿原で早春に咲くサトイモ科の植物。ミズバショウの仏炎苞を黒くしたような風情の植物である。発熱する植物としても知られ、花粉はハエの仲間によって媒介される。
ザゼンソウの概要
花期1) | : | 3-5月。 |
希少度 | : | ★★★(やや稀) |
生活形1) | : | 多年草 |
生育環境1,2) | : | 水湿地。 |
学名3) | : | renifolius「腎形葉の」 |
ザゼンソウの形態
花
花は葉に先立って開き、花茎は10-20㎝1)。
仏炎苞は暗紫褐色(稀に緑色)、長さ20㎝1)。
花は肉穂花序で長さ約2㎝1)。
両性で、花被片は4個、雄しべは4個、雌しべは1個1)。
雌性先熟で、写真のものは雄性期。
葉
葉は花より後に展開し、長い葉柄がある。
葉は円心形で、葉身は長さ・幅ともに40㎝になる1)。
芽生え
花も葉も展開する前の芽生え。
芽生え。
識別
日本には3種のザゼンソウの仲間が分布する。
ナベクラザゼンソウはザゼンソウに似るが、全体小型で仏炎苞も長さ7㎝以下、花は夏に葉とほぼ同時に咲く1)。岩手県から福井県にかけての多雪地に分布する1,4)。
ヒメザゼンソウは葉がザゼンソウより細長く、花は葉が展開したのちに夏に咲く1)。北海道~中国地方に分布する4)。
ザゼンソウの生態
発熱する植物
ザゼンソウは自ら発熱し、氷点下においても肉穂花序の温度を数日間22-26℃に保つことができることが知られている5)。
本種は雌性先熟で、雌しべが成熟する時期(雌性期)に発熱する一方、その後両性期を経て雄性期になると発熱は止まる。
この発熱する時期には花序の組織内にミトコンドリアが集積していることが確認されており、細胞の代謝が活発になることが発熱と関係していることが示唆されている5)。
この発熱の意義については、サトイモ科の他種ではポリネーターを誘引する臭気の拡散に関わっていることが指摘されているほか、早い時期の開花を可能にすることや凍結によるダメージから花序を守ることに関与しているのではないかと考察されている5)。
また、ザゼンソウの花粉もこの発熱に適応しており、23℃から5℃以上外れると花粉の発芽率や花粉管の長さが大幅に低下することが分かっている7)。
なお、ナベクラザゼンソウは発熱するが8)、ヒメザゼンソウはほとんど発熱しない6,8)。
ポリネーター
カナダにおける近縁のアメリカザゼンソウSymplocarpus foetidusにおける研究では、花序にはユスリカ科、ハヤトビバエ科、キノコバエ科、ノミバエ科、ショウジョウバエ科、キモグリバエ科、ハナバエ科といった双翅目昆虫が訪花したことが報告されている。
臭気
本種の花は悪臭を放つことが知られており1,5)、ポリネーターの誘引に関係していると考えられる。
その臭気から、英語ではこの仲間はSkunk Cabbageと呼ばれている。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)門田裕一・永田芳男・畔上能力 2013. 『山渓ハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新版』山と溪谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)大塚孝一. (2002). 日本産ザゼンソウ属の分布: 特にナベクラザゼンソウについて.
5)Ito-Inaba, Y. (2014). Thermogenesis in skunk cabbage (Symplocarpus renifolius): New insights from the ultrastructure and gene expression profiles. Advances in Horticultural Science, 28(2), 73-78.
6)Kim, S. H., Yang, J., Park, J., Yamada, T., Maki, M., & Kim, S. C. (2019). Comparison of whole plastome sequences between thermogenic skunk cabbage Symplocarpus renifolius and nonthermogenic S. nipponicus (Orontioideae; Araceae) in East Asia. International journal of molecular sciences, 20(19), 4678.
7)Seymour, R. S., Ito, Y., Onda, Y., & Ito, K. (2009). Effects of floral thermogenesis on pollen function in Asian skunk cabbage Symplocarpus renifolius. Biology Letters, 5(4), 568-570.
8)Sato, M. P., Matsuo, A., Otsuka, K., Takano, K. T., Maki, M., Okano, K., … & Ito‐Inaba, Y. (2023). Potential contribution of floral thermogenesis to cold adaptation, distribution pattern, and population structure of thermogenic and non/slightly thermogenic Symplocarpus species. Ecology and Evolution, 13(7), e10319.
編集履歴
2024/3/18 公開