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暖地の海沿いでよく見られるクスノキ科の常緑樹。赤くて丸みを帯びる冬芽の形が特徴的で、識別の助けとなる。春に黄緑色の両性花を咲かせるが、雌性期と雄性期があり、時間帯で咲き分けている。
タブノキの概要

花期1) | : | 4-5月 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
生活形1,2) | : | 常緑高木 |
生育環境1,2,7) | : | 沿海地に多い |
学名3) | : | 種小名thunbergiiはスウェーデンの植物学者カール・ペーター・トゥーンベリへの献名。 |
別名1,2,9) | : | イヌグス |
タブノキの形態
葉
冬芽
花
樹皮
樹形
生態
異形異熟性Heterodichogamy
タブノキは雌雄同株かつ両性花をつけるが、雌雄の機能が時間的に転換する異型異熟性heterodichogamyと呼ばれる開花様式を示す11)。
heterodichogamyは次の4つの条件を兼ね備えている場合に成立するとされる10):
①異熟に個体レベルの同調性がある(同調性異熟)
②集団が異熟の順序またはタイミングが異なる2タイプの個体からなる(二型性)
③同一タイプの個体同士では雌性期同士・雄性期同士が同調する(タイプ内の同調性)
④一方のタイプの雌性期ともう一方のタイプの雄性期が同調する(タイプ間の相補性)
heterodichogamyは11科18属で知られ、様々なパターンがある。
タブノキにおいては次の4つの特徴があることが判明している11)。
①両タイプとも雌性先熟である。
②雌性→雄性の変化にあたって花の閉じる間隔には12時間と24時間の二型性がある。
③各タイプは午前中に雌性花が咲き午後に雄性花が咲く、またはその逆である。
④開花の二型性は個体レベルで同調している。
すなわち、タブノキ集団には次の2タイプが見られる:
1)morning female:7~8時に雌性花として開き、13~14時に閉じ、次の日の12~13時に雄性花として開き、17~18時に閉じる。
2)morning male:13~14時に雌性花として開き、18~19時に閉じ、翌日の6~7時に雄性花として開き、14~15時に閉じる。
これらは自家受粉を避け、他家受粉を促進するための機構であると考えられる11)。
花粉媒介昆虫(ポリネーター)
訪花昆虫としてはジェネラリストのハチ目、ハエ目、コウチュウ目昆虫が優占しているとされる11)。
種子散布
種子は鳥によって散布される8)。
識別
葉形の個体差が大きいため、普通種でありながら慣れないうちは識別に悩む種の一つである。
鋸歯が全く出ないこと、葉裏が白みを帯びること、冬芽が赤くてよく膨らむこと、を確認すれば比較的明瞭に識別できる。
タブノキとホソバタブの識別
同属のホソバタブとは時によく似るため注意。
通常はホソバタブのほうが葉が細く、縁が波打つ傾向がある。
またホソバタブは葉幅が基部寄りで最大となり、冬芽はタブノキに似るもののより小さい。

文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)田中信行・松井哲哉 (2007-) PRDB:植物社会学ルルベデータベース, 森林総合研究所. URL: http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/index.html 2023/12/21閲覧.
6)石田弘明. (2020). タブノキの分布北限個体群の現状. 植生学会誌, 37(1), 57-61.
7)服部保. (1992). タブノキ型林の群落生態学的研究: I. タブノキ林の地理的分布と環境. 日本生態学会誌, 42(3), 215-230.
8)平田令子, 畑邦彦, 曽根晃一 2006. 果実食性鳥類による針葉樹人工林への種子散布. 日本森林学会誌 88(6):515-524.
9)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.
10)福原達人. (2011). Heterodichogamy (異型異熟) の自然史. 分類, 11(1), 35-46.
11)Watanabe, S., Noma, N., & Nishida, T. (2016). Flowering phenology and mating success of the heterodichogamous tree Machilus thunbergii S ieb. et Z ucc (L auraceae). Plant Species Biology, 31(1), 29-37.
編集履歴
2023/12/21 公開
2024/1/30 識別用比較画像を追加