植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > クワズイモ属
分布1,2,4):四国南部、九州南部、琉球。小笠原では帰化植物とされる4)。海外では中国南部、台湾、インドシナ、インドの暖帯~亜熱帯1)。
琉球列島の道端などで普通に見られる大型のサトイモの仲間。その名の通り食べられず、シュウ酸カルシウムによる食中毒の原因としても知られる。
クワズイモの概要
花期1) | : | 5-8月。筆者は3月や11月に花を確認している。西表では3月、4月によく見られるという7)。 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
生活形1) | : | 多年草 |
生育環境1) | : | 山地の路傍、海岸林、牧場、原野、集落内の荒地など7)。 |
学名3) | : | odora「よい香りがする」 |
クワズイモの形態
葉
葉柄は太く60-120㎝、葉身は長さ60㎝程度1)。
葉脈は9-13対で、中央脈から葉縁に向かってまっすぐ伸びる1)。
全体の草丈は1mを超える大型の草本。
幼い個体。葉脈はまっすぐ。
小型の近縁種シマクワズイモは葉脈が曲がって葉の先端に向かうことから識別できる1)。
茎
茎は太く、地上に露出し、葉痕が輪状につく1)。
花
花序は仏炎苞を伴うサトイモ科らしい肉穂花序。
クワズイモ属は単性花のグループであるサトイモ亜科に属しており、花は雄花と雌花が別々に存在する。
下から雌花、仮雄蕊、雄花、仮雄蕊の順につく1)。
雌花の部分は仏炎苞の筒部に包まれており写真では隠れている。
果実
赤色に熟し、裂けて反り返った仏炎苞内部から露出する1)。
識別
日本に自生するとされる種で類似するのはヤエヤマクワズイモ、シマクワズイモの2種。
ただし後述の通り、通常野生状態で見られるものはほぼクワズイモであると考えられる。
クワズイモとシマクワズイモの識別
シマクワズイモは奄美以南の琉球および小笠原に分布し1)、小笠原では帰化とされる4)。
クワズイモは大型で1mを超えるのに対し、シマクワズイモは草丈30-50㎝程度。
葉脈の走り方も異なり、クワズイモの側脈は直線状に伸びるが、シマクワズイモは側脈が曲がって葉の先端に向かう1)。
ただし西表島では自然状態では生育が確認できなかったとされ7)、琉球における分布も帰化である可能性がある。
両種の雑種と考えられるものとしてアイノコクワズイモAlocasia x okinawensisがある1)。
ヤエヤマクワズイモについて
日本にはもう1種、ヤエヤマクワズイモが西表島に分布するとされる1)。
本種に関してはフィリピンに自生するAlocasia atropurpureaの学名が充てられてきたが6)、フィリピン産クワズイモ属のレビュー論文5)における同種の特徴とは一致しないという6)。
安渓 (1987)7)によると、この種は一部の集落に限って見られ、葉はインドクワズイモAlocasia macrorhizosに、仏炎苞はクワズイモに似ており、両種の雑種起源の帰化植物の可能性があると推測している7)。
形態的にはクワズイモよりも大型となり、高さ3.5-6m、葉身は盾状とならず長さ1mに達するという1)。
サトイモ属との識別
琉球においてはサトイモColocasia esculentaが栽培されている場合があり、草姿や葉が似ているため注意。
花の形態が大きく異なるほか、サトイモのほうが葉の側脈の数が少なく、葉の質感も異なる。
クワズイモの生態
ポリネーター
クワズイモはクワズイモショウジョウバエColocasiomyia alocasiae、およびニセクワズイモショウジョウバエC. xenalocasiaeによって花粉媒介されることが知られている。
これら2種はクワズイモの花序を繁殖場所として利用し、仮雄蕊の出す香りに誘われてやってくる8)。
花は雌性先熟でポリネーターによる他殖が主に行われている。
先端の仮雄蕊の部分、または雄花より先を切除した実験では結実率が大幅に減少した8)。
生育環境
山地の路傍、海岸林、牧場、原野、集落内の荒地などに普通に見られ7)、人里周辺にも多い身近な植物である。
食中毒について
本種は組織中に不溶性のシュウ酸カルシウムの結晶を含み、食べると食中毒を引き起こす9)。
観葉植物として栽培されていたものをサトイモと誤認しての事故が多い9)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)琉球の植物研究グループ 国立科学博物館 2018-.『琉球の植物データベース』
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)豊田武司 2014. 『小笠原諸島 固有植物ガイド』ウッズプレス.
5)Medecilo, M. P., & Madulid, D. A. (2013). A review of the taxonomy and taxonomic characters of Philippine Alocasia (Schott) G. Don (Araceae). Philippine Journal of Science, 142(3), 145.
6)梶田結衣, 米倉浩司, 遠山弘法, 赤井賢成, 天野正晴, 阿部篤志, … & ナイキアキヨ. (2022). 沖縄県西表島における外来植物目録 (Doctoral dissertation, Osaka Museum of Natural History).
7)安溪貴子. (1987). 沖縄・西表島のサトイモ科植物の形態と染色体数.
8)Miyake, T., & Yafuso, M. (2003). Floral scents affect reproductive success in fly‐pollinated Alocasia odora (Araceae). American Journal of Botany, 90(3), 370-376.
9)村上太郎, 昌山敦, 大島詔, 仲谷正, & 山口之彦. (2018). 大阪市で発生したクワズイモによる食中毒事例について. 地方独立行政法人大阪健康安全基盤研究所研究年報= Annual report of Osaka Institute of Public Health, (2), 63-67.
編集履歴
2024/3/13 公開
2024/9/23 花の項目に追記