コウキクサ(広義) Lemna minor

植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > アオウキクサ属

秋田県美郷町 2024/7/31
※分布図は目安です。

分布1,2,4):北海道、本州、四国、九州。国外では南米を除く全大陸に広く分布。狭義コウキクサやムラサキコウキクサ、キタグニコウキクサについては本文を参照。

湧水環境などで見られるウキクサの仲間。葉状体にやや厚みがあるのが特徴で、さらに3つの型に分けられる。狭義コウキクサは北日本や日本海側、ムラサキコウキクサは中部以西太平洋側に多く、キタグニコウキクサは北海道の主に東部に分布する。

コウキクサの概要

花期2,4,6)野外ではほぼ開花しない。
希少度★★(普通)
生活形2,4)常緑の浮遊植物
生育環境2,4)湖沼、水路、水田(特に湿田)、ハス田など
学名3)minor「より小さい」

コウキクサの形態

※本ページで写真を紹介しているものはすべて狭義コウキクサの可能性が高いと考えている。

葉状体

秋田県美郷町 2024/7/31

葉に見える部分は、茎と葉の区別がなく維管束もない「葉状体」と呼ばれるもの2,5)
アオウキクサと異なり、冬も枯れない常緑性2,4)

秋田県美郷町 2024/7/31

狭義コウキクサの葉状体は長さ3-4.5㎜、幅2-3.5㎜でやや厚みがある2)

秋田県美郷町 2024/7/31

根の基部を取り巻く鞘(根鞘)には翼がない2,4)
アオウキクサ類(アオウキクサ、ホクリクアオウキクサ、ナンゴクアオウキクサ)には翼がある2,4)

秋田県美郷町 2024/7/31

別の群体。
根鞘に翼がないこと、葉状体に厚みがあることがアオウキクサ類との違い。

根端

秋田県美郷町 2024/7/31

根端は鈍頭(丸い)。
アオウキクサ類では根の先端が鋭頭(尖る)のため、重要な識別ポイントとなる2,4)

秋田県美郷町 2024/7/31

根端は鈍頭。

開花は稀2,4)
平碆・角野(1995)においては野外では開花は確認されず、栽培下でサリチル酸による開花誘導を行ってもムラサキコウキクサでわずかに1例開花が見られたのみであった6)

識別

葉状体の厚みが強いことなどから「広義コウキクサ」であることは比較的容易に識別できるが、その先はしばしば難しい。

ウキクサ亜科の他属との識別

葉状体1個あたりの根の本数が1本であることで容易にアオウキクサ属だと分かる2,4)
他属との比較表についてはアオウキクサのページを参照。

アオウキクサ属の他種との識別

本種(広義コウキクサ)は根端が鈍頭(丸い)で、根鞘に翼がない。葉脈は3脈(ただし不明瞭)。

アオウキクサ類(アオウキクサホクリクアオウキクサナンゴクアオウキクサ)は根端が鋭頭(尖る)。根鞘に翼がある。
イボウキクサは葉状体の裏面が著しく膨らむ(浮嚢が発達する)。葉状体もコウキクサより大きい。
ヒナウキクサは葉状体が小さく1.5-2㎜、1脈性(ただし不明瞭)。
チリウキクサは葉状体が長楕円形~やや鎌型となり、1脈性(ただし不明瞭)。

アオウキクサ属の他種との詳細な比較表についてはアオウキクサのページを参照。

狭義コウキクサ、ムラサキコウキクサ、キタグニコウキクサ

国内の広義コウキクサは3つの型に分かれることが知られており、それぞれ別種として記載されている。
これらは酵素多型などによって識別されるが、野外での外部形態からの同定はしばしば困難であるため、コウキクサ(広義)としてまとめられることも多い2,4,6)
下表に特徴をまとめた。

コウキクサ
L. minor
ムラサキコウキクサ
L. japonica
キタグニコウキクサ
L. turionifera
国内分布北海道~四国(日本海側、北日本に多い)北海道~九州(中部地方以南太平洋側に多い)北海道(主に東部)
葉状体の長さ3-4.5㎜コウキクサよりやや小2-4㎜
葉状体の色緑色で、赤紫色を帯びることはないふつう全体または根の付け根を中心に赤紫色を帯びる(緑色の場合あり)裏面全体が鮮やかな赤紫色になる
葉状体の厚みやや厚みがあるやや厚みがあるコウキクサほどの厚みはない
根端丸い丸い丸いがコウキクサほどではない
越冬常緑、浮いたまま常緑、浮いたまま常緑、水中に沈む
角野(1994)4)、角野(2014)2)より作成。

L. turioniferaはエゾコウキクサとして角野(1994)4)で新称されたが、その後平碆・角野(1995)6)においてキタグニコウキクサという和名に訂正されている。

コウキクサの生態

生育環境

コウキクサ(狭義)は湖沼、水路、水田(特に湿田)、ハス田などに生育する2,4)
西日本の産地はほぼ湧水環境に限られる2)
キタグニコウキクサは湖沼や河川の淀みに生育する2)

以下の画像は恐らくは狭義コウキクサと考えている。

岩手県奥州市 2024/8/7

湧水の流れ込む小さな池に群生するコウキクサ(広義)。

秋田県美郷町 2024/7/31

湧水から流れ出る水路において、ナガエミクリなどと共に生育するコウキクサ(広義)。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)角野康郎 2014. 『ネイチャーガイド 日本の水草』文一総合出版.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)角野康郎 1994.『日本水草図鑑』文一総合出版.
5)清水建美 2001. 『図説 植物用語辞典』八坂書房.
6)平碆雅子, & 角野康郎. (1995). 酵素多型を用いた日本産コウキクサ (広義) の再検討. 植物分類, 地理, 46(2), 117-129.

編集履歴

2024/10/31 公開