植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > アオウキクサ属
分布1,2,4,5):本州、四国に局地的に帰化。ヨーロッパ原産。海外ではアフリカ、アジア、南北アメリカに帰化。
ヨーロッパ原産のウキクサの仲間で、葉状体の裏側が著しく膨らむのが特徴的な種。分布はある程度局所的だが、地域によっては非常に多く見られる。霞ケ浦周辺では本種がハス田などに普通に生育しているようである。
イボウキクサの概要
花期4) | : | 5-8月。 |
希少度 | : | ★★★(やや稀な外来種) |
生活形2,4) | : | 浮遊植物 |
生育環境4) | : | ため池、河川、水路など。 |
学名3) | : | gibba「片側にふくらみがある」 |
イボウキクサの形態
葉状体
葉に見える部分は、茎と葉の区別がなく維管束もない「葉状体」と呼ばれるもの2,9)。
葉状体は長さ4-6㎜、幅3-4㎜で、裏面が著しく膨らむ2)。
写真の場所ではコウキクサなどと混生しており、大きいものがイボウキクサ。
葉状体の裏側(写真では上側)の膨らみが独特で見分けやすい。
膨らみの程度は環境によって差があるとされる6)。
膨らんだ葉状体の裏側。
葉状体はコウキクサ(写真の大部分)より大きく、ウキクサ(写真の左端近くなど)より小さい。
根端
根端は鈍頭(丸い)。
コウキクサなどは同様に丸いが、アオウキクサなどでは根の先端が尖る2,4)。
花
花序は雌花1個と雄花2個からなり8)、国内でも産地によっては普通に開花が観察される4)。
識別
ウキクサ亜科の他属との識別
葉状体1個あたりの根の本数が1本であることで容易にアオウキクサ属だと分かる2,4)。
他属との比較表についてはアオウキクサのページを参照。
アオウキクサ属の他種との識別
葉状体の裏面が膨らむ(浮嚢が発達する)ことにより通常は容易に識別が可能である。
ウキクサやコウキクサ、ミジンコウキクサなどと混生していることがあるが、一般的に葉状体のサイズが異なり、ウキクサ>イボウキクサ>コウキクサ>ミジンコウキクサの順で大きい。
アオウキクサ属の他種との詳細な比較表についてはアオウキクサのページを参照。
イボウキクサの生態
繁殖生態
国内でも開花が観察されるものの、基本的に栄養繁殖(葉状体の分裂によるクローン繁殖)によって増殖するとされる7,8)。
生育環境
ため池、河川、水路などに生育する4)。
特に湧水のある池やクレソン田にあるとされ2)、霞ケ浦周辺ではハス田でも見られる。
コウキクサなどと混じってハス田に生育するイボウキクサ。
移入経路
イボウキクサは植物の開花生理の研究材料として名古屋大学に最初に導入され、その後名古屋市弥富町において初めて定着が確認された6)。
他の地域においても水鳥や人の手によって葉状体が運ばれることによって拡散したのではないかと考えられている7)。
名古屋型と鳴門型
国内に定着しているイボウキクサについては、酵素多型から2つの系統が存在していることが分かっている7)。
それによると宮城県から大阪府にかけて見つかっているものはすべていわゆる「名古屋型」、鳴門市周辺のものはすべて「鳴門型」として明瞭に分けられるという7)。
鳴門市周辺ではコウキクサにおいても特異な系統が見出されており、名古屋市とは異なりアクアリウム由来の逸出である可能性も指摘されている7)。
応用
イボウキクサは下水や廃水から栄養塩(有機・無機)や重金属(鉛やウランなど)を効率よく除去することが可能であることが知られている8)。
また産業廃棄物の毒性を検査するバイオアッセイにも使用可能で、応用研究も盛んに行われてきた植物である8)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)角野康郎 2014. 『ネイチャーガイド 日本の水草』文一総合出版.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)角野康郎 1994.『日本水草図鑑』文一総合出版.
5)山口県環境生活部自然保護課 2018.『山口県外来種リスト』https://www.pref.yamaguchi.lg.jp/soshiki/41/20709.html 2024年10月26日閲覧.
6)浜島繁隆. (1974). イボウキクサ. 植物研究雑誌, 49(12), 359-359.
7)角野康郎, & 平碆雅子. (1994). 日本のイボウキクサ. 植物分類, 地理, 45(1), 75-76.
8)Fu, L., Huang, M., Han, B., Sun, X., Sree, K. S., Appenroth, K. J., & Zhang, J. (2017). Flower induction, microscope-aided cross-pollination, and seed production in the duckweed Lemna gibba with discovery of a male-sterile clone. Scientific Reports, 7(1), 3047.
9)清水建美 2001. 『図説 植物用語辞典』八坂書房.
編集履歴
2024/10/26 公開