植物 > 被子植物 > センリョウ目 > センリョウ科 > チャラン属
分布1,2):北海道、本州、四国、九州。海外では朝鮮半島、中国(北部、東北部)、アムール、ウスリー、サハリン。
春に特徴的な花を咲かせるセンリョウ科の多年草。白い糸のように見えるのは雄しべの一部である。近縁種にキビヒトリシズカ、フタリシズカがある。
ヒトリシズカの概要
花期1,2) | : | 4-5月 |
希少度 | : | ★★(普通) |
生活形1,2) | : | 多年草 |
生育環境 | : | 山地の林内2) |
学名3) | : | quadrifolius「4枚の葉の」 |
ヒトリシズカの形態
葉・花
花は春、葉の展開と同時に開く。
茎頂に花序を1つずつ(稀に2つ)つける。
花は花被(花びら)がなく、白い糸状のものは雄しべの葯隔で1花あたり3本ある。
3本のうち、外側の2本の花糸の付け根には黄色い葯がある。
またそれとは別に花の中心部に雌しべがある。
葉は対生し、1つの茎に4枚(2対)つく。
種小名も葉が4枚ずつつくことに由来すると考えられる。
茎ははじめ赤紫色でのちに緑色となる(時にはじめから緑色)。
葉ははじめ短いが、のちに伸びて葉身長4-9㎝になる。
葉先は急に狭まって尖る。
両面無毛で光沢がある。
果実
果実は淡緑色、球形で長さ2.5-3㎜1)。
苞はほとんど裂けない。
識別
花が咲いている状態では非常に特徴的で、キビヒトリシズカ以外の植物と間違えることは考えにくい。
ただし、花が咲いているフタリシズカを「ヒトリシズカの蕾の状態」と誤認する例があるため注意が必要。
ヒトリシズカは葉が展開する時にはすでに花を咲かせている。
なお、属名の由来となっているチャランChloranthus spicatusは中国原産の木本種で花序は黄色く、琉球で逸出帰化の例がある4)。
花の雰囲気の似るシライトソウは単子葉類。
ヒトリシズカとキビヒトリシズカの識別
ヒトリシズカが北海道から九州まで広く分布するのに対し、キビヒトリシズカの分布は限られる。
①花の形態、②葉の光沢、③苞の形状、の3点が分かりやすい識別ポイント。
ヒトリシズカ | キビヒトリシズカ | |
---|---|---|
分布 | 北海道~九州 | 岡山県・香川県など瀬戸内海沿岸地域、九州北部、対馬など |
葯隔 | 8-12㎜1) | 3-5㎜1) |
葯 | 雄しべの外側に2個1) | 雄しべの内側に4個1) |
葉先 | 光沢がある | 光沢がない(展開当初はやや光沢がある)4) |
苞 | 裂けない/浅く2~3裂1) | 深く3裂1) |
ヒトリシズカとフタリシズカの識別
これら2種は名前が似ているが、実際に同属の近縁種である。
フタリシズカは①葯隔が短く糸状にならない、②花序はふつう分岐し2~5本(時に1本)、③葉の節間が長く0.5~2㎝。
ヒトリシズカは①葯隔が長く糸状になり、②花序はふつう1本、③葉の節間が短く4輪生に見える。
ヒトリシズカとニホンジカ
ヒトリシズカはフタリシズカとともに、ニホンジカの不嗜好性植物(食べるのを避ける植物)として知られる5)。
ツシマジカ(ニホンジカの亜種)の食害が極めて深刻な対馬の山地においても、ほぼ裸地と化した林床に本種が生育していた(写真)。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)門田裕一・永田芳男・畔上能力 2013. 『ヤマケイハンディ図鑑2 山に咲く花 増補改訂新版 山溪ハンディ図鑑』山と溪谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)大森雄治. (1999). 日本のドクダミ科・コショウ科・センリョウ科植物. 横須賀市博物館研究報告. 自然科学: Science report of the Yokosuka City Museum, (46), 9-21.
5)牧野結衣, 平尾聡秀, & 梅木清. (2020, December). 奥秩父山地におけるシカ不嗜好性植物 2 種の分布域拡大過程. In 環境情報科学論文集 Vol. 34 (2020 年度 環境情報科学研究発表大会) (pp. 156-161). 一般社団法人 環境情報科学センター.
編集履歴
2024/2/28 公開