分布1):北海道~本州中北部。南限は南アルプス光岳。国外では千島列島、サハリン、カムチャツカ半島、東シベリア、朝鮮半島、中国東北。
高山帯の植生を代表する樹木。種子散布は主にホシガラスによって行われる。その名の通り這って広がる樹形が特徴的で、幹から不定根を出して匍匐前進のように成長していく。
ハイマツの概要
花期1) | : | 6-7月 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
大きさ1) | : | 高さ1-2m |
生活形1) | : | 常緑低木 |
生育環境2) | : | 森林限界を超えた高山の尾根周辺 |
和名 | : | 樹形が這うことから |
学名3) | : | pumilus「矮性の」 |
ハイマツの形態
葉
5本束生し、長さ4-8㎝2)。葉はゴヨウマツとほぼ同じ。
球果(松ぼっくり)
長さ3-5㎝。花の翌年の秋に熟す1)。動物散布のため、熟しても裂開せず種子は落ちない。
若い球果。雌花は新しい枝の先に2-3(4)個つく4)。
雄花
花期は6-7月1)。雄花は新しい枝の基部に多数つく。
ハイマツの生育環境
森林限界よりも上に分布する。日本の高山帯の植生を代表する植物で、生育地ではしばしば広大なハイマツ群落が見られる。北に行くほど森林限界は下がり、北海道では低地でも局所的にハイマツが見られる場合がある。
ハイマツとホシガラス
ハイマツの種子はおもにホシガラスによって散布される。ホシガラスは一度に最大200個ものハイマツの種子をのどに詰め込むことができ、それを運んで土中などに埋める貯食行動を行う5)。このうち、食べ残された種子が発芽し定着するのである。
ハイマツの球果(松ぼっくり)は熟しても開かず、種子はいつまでも落ちない。また、種子には風に飛ばされるための翼(ひれ)がない。これらも動物散布への適応であると考えられる。
硫黄山(アトサヌプリ)のハイマツ
北海道の硫黄山(アトサヌプリ)の北側山麓から川湯温泉にかけての一帯には、標高140~170mしかないにもかかわらずハイマツの群落がみられる6)。活火山で土壌が酸性化しており、硫黄を含む火山ガスが噴き出す特殊な環境であるため、一般的な森林を構成する植物が生育できないと考えられる。
硫黄山で見られたハイマツの幼木。ハイマツの実生はハイマツ群落内には見られず、ホシガラスによって運ばれた先の裸地等で見られる7)。硫黄山においてもホシガラスがハイマツの種子散布を担っている。
識別
日本産マツ属全体の見わけかたについては「マツ属」のページをご参照ください。
日本産のマツ類のうち、葉が5本束生する「五葉松」は本種とゴヨウマツ、ヤクタネゴヨウ、チョウセンゴヨウの合計4種。また、ゴヨウマツとの間に種間雑種ハッコウダゴヨウが知られる。
ゴヨウマツとの識別
出現する標高が一般には異なり、樹形で一見して区別できる場合が多いが、葉はほとんど同じ。
樹形:ハイマツは低木で、幹が這う。ゴヨウマツは高木で、幹が直立する。
球果1,8):ハイマツの球果は裂開せず、種子は翼を持たない。長さは3-5㎝程度で小型。ゴヨウマツの球果は裂開し、種子は翼を持つ。長さは5-8㎝以上で大型。
若枝の毛2):ハイマツの若枝には褐色の毛が密生する。ゴヨウマツの若枝は毛が少ないか無毛。
分布:近畿地方以西にはハイマツは分布しない。
標高:ハイマツは高山帯に生え、ゴヨウマツよりも高標高地に分布する傾向がある。
ハッコウダゴヨウについて
北海道(アポイ岳)、本州(八甲田山・蔵王山・東吾妻山・至仏山・立山など)にはハイマツとキタゴヨウの雑種であるハッコウダゴヨウPinus x hakkodensisが見られる。典型的なものは幹が斜上し、種子にごく短い翼がある1)。両種の間には浸透性交雑が起こっており、ハイマツに近いものからキタゴヨウに近いものまでさまざまな個体が見られる8)。
ヤクタネゴヨウとの識別
分布は重ならない。ハイマツの樹形が這うことにより成木では一見して区別可能。
チョウセンゴヨウとの識別
出現する標高が一般には異なる。樹形、葉の長さにより一見して区別可能。
樹形:ハイマツは低木で、幹が這う。チョウセンゴヨウは高木で、幹が直立する。
葉の長さ2):チョウセンゴヨウの葉は7-12㎝と長い。ハイマツは4-8㎝程度。
分布と標高1,2):チョウセンゴヨウは本州(栃木県~岐阜県)、四国(愛媛県東赤石山)の亜高山帯に分布する。ハイマツは北海道~中部地方の高山帯に分布する。
分類
本サイトの裸子植物の分類はChristenhusz et al.(2011)9)による。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)佐藤卓 2001. 富山県立山におけるハイマツ, ハッコウダゴヨウ, ゴヨウマツの球果の形成について. 富山市科学文化センター研究報告 24: 73-81.
5)林田光祐 1989. 北海道アポイ岳におけるキタゴヨウの種子散布と更新様式. 北海道大學農學部演習林研究報告 46(1): 177-190.
6)俵浩三 1986. 川湯・硫黄山および網走・濤沸湖の自然保護と植生景観の変遷 – 自然公園特別保護地区における植生保護の問題点 – . 専大北海道紀(自然) 19: 55-68.
7)梶本卓也 1995. ハイマツの生態:とくに物質生産と更新過程について. 日本生態学会誌 45: 57-72.
8)谷尚樹 2014. 日本の森林樹木の地理的遺伝構造(5)ゴヨウマツ(マツ科マツ属). 森林遺伝育種 3(2): 73-77.
9)Christenhusz M. J. M., Reveal J. L., Farjon A., Gardner M. F., Mill R. R., Chase M. W. 2011. A new classification and linear sequence of extant gymnosperms. Phytotaxa 19: 55-70.
編集履歴
2021/7/1 公開