植物 > 被子植物 > オモダカ目 > サトイモ科 > アオウキクサ属
分布1,2,4):北海道、本州、四国、九州。各地に普通。日本固有種。
水田で普通に見られるウキクサの仲間。根が1本ずつついているのがアオウキクサの仲間の特徴である。似た種がいくつかあり、正確には根の先端の尖り具合や越冬形態などを確認することで識別できる。
アオウキクサの概要
花期2,4) | : | 7-9月ごろ。 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
生活形2,4) | : | 一年生の浮遊植物 |
生育環境4) | : | ため池、水田など |
学名 | : | aoukikusa「アオウキクサ」 |
アオウキクサの形態
葉状体
葉に見える部分は、茎と葉の区別がなく維管束もない「葉状体」と呼ばれるもの2,3)。
葉状体は長さ3-5㎜、幅2-4㎜で薄い2)。
写真の左側の群体は裏側が見えている状態。
ウキクサ(右側)よりも小型で、葉脈は目立たない。
ふつう3-5個体が群体を作っている1)。
葉状体の基部は左右非対称1)。
3脈があるが、不明瞭で分かりにくいことも多い2)。
根鞘の翼
アオウキクサ類(アオウキクサ、ホクリクアオウキクサ、ナンゴクアオウキクサ)の根の基部を取り巻く鞘(根鞘)には翼がある2,4)。
コウキクサ類(コウキクサ、キタグニコウキクサ、ムラサキコウキクサ)にはこの翼がない2,4)。
別の群体(同じ個体群)。
翼はよく観察しないと見えづらいため注意。
葉の質はコウキクサより薄い。
本属は葉状体1個(1個体)につき根が1本2,4)。
根端
根端は鋭頭。
コウキクサ類では根の先端が丸くなるため、重要な識別ポイントとなる2,4)。
根端は尖る。
花
花序は雌花1個と雄花2個からなり、7~9月ごろ開花する1,2)。
識別
ウキクサ亜科の他属との識別
葉状体1個あたりの根の本数が1本であることで容易にアオウキクサ属だと分かる2,4)。
ウキクサ属 | ヒメウキクサ属 | アオウキクサ属 | ミジンコウキクサ属 | |
---|---|---|---|---|
国内種数 | 1種 | 1種 | 9種(帰化含む) | 1種 |
根の本数 | (3-)7-21本 | (1-)2-7本 | 1本 | ない |
花序の構成 | 雌花1、雄花2 | 雌花1、雄花2 | 雌花1、雄花2 | 雌花1、雄花1 |
葉状体の長さ | 3-12㎜ | 2-4.5㎜ | 1.5-6㎜ | 0.3-0.8㎜ |
アオウキクサ属の他種との識別
根端が尖ることで、ホクリクアオウキクサ・ナンゴクアオウキクサを除く同属他種と識別できる2,4)。
これら2種(・亜種)との識別は越冬形態を確認するのが確実。
すなわち、亜種アオウキクサは冬に枯れて種子で越冬するが、ホクリクアオウキクサは葉状体のまま澱粉を蓄えて水中に沈む2,4,5)。
夏は両亜種の識別は困難だが、ホクリクアオウキクサは生育が進むと根の先端寄りがらせん状にねじれる傾向2,4,5)。
ナンゴクアオウキクサは葉がやや分厚くコウキクサに似て、葉状体のまま越冬する2,4,5)。
アオウキクサ | ホクリクアオウキクサ | ナンゴクアオウキクサ | コウキクサ | ムラサキコウキクサ | キタグニコウキクサ | イボウキクサ | ヒナウキクサ | チリウキクサ | |
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国内分布 | 北海道~九州 | 山形~岐阜(日本海側) | 静岡~沖縄 | 北海道~四国(日本海側、北日本に多い) | 北海道~九州(中部地方以南太平洋側に多い) | 北海道(主に東部) | 本州、四国(帰化) | 本州(帰化) | 本州(帰化) |
葉状体の長さ | 3-5㎜ | アオウキクサと同様? | アオウキクサと同様? | 3-4.5㎜ | コウキクサよりやや小 | 2-4㎜ | 4-6㎜ | 1.5-2㎜ | 2-4㎜ |
葉状体の形・色 | 倒卵状広楕円形 | アオウキクサと同様 | 広倒卵形、やや厚くコウキクサに似る | 広楕円形、アオウキクサより厚い | 広楕円形、ふつう赤紫色 | 広楕円形、裏面全体が鮮やかな赤紫色になる | 広楕円形、膨らむ | 卵形~長楕円形 | 長楕円形、時に鎌形 |
葉脈 | 3脈、不明瞭 | 3脈、不明瞭 | 3脈、不明瞭 | 3脈、不明瞭 | 3脈、不明瞭 | 3脈、不明瞭? | ? | 1脈 | 1脈 |
根端 | 尖る | 尖る、らせん状にねじれる | 尖る | 丸い | 丸い | 丸いがコウキクサほどではない | 丸い | 細くなるが尖らない | 丸い |
根鞘の翼 | ある | ある | ある | ない | ない | ない | ない | ない | ない |
越冬 | 枯死(種子) | 常緑、水中に沈む | 常緑、浮いたまま | 常緑、浮いたまま | 常緑、浮いたまま | 常緑、水中に沈む | ? | 常緑、浮いたまま | 常緑、一部水中に沈む |
※ホクリクアオウキクサはアオウキクサの亜種。他は独立種。
※ヒンジモは識別が容易なため除外してある。
アオウキクサの生態
開花特性
アオウキクサ属の花序は雌花1個と雄花2個からなる1)。
基亜種アオウキクサと亜種ホクリクアオウキクサでは、このうち雌花1個と雄花1個が同時に成熟し、その後残りの雄花1個が成熟する5)。
またこれら3つの花が同時に成熟する場合もあり、自家受粉により容易に結実する5)。
一方、別種とされるナンゴクアオウキクサでは雌性先熟で、雌しべ→雄しべ→雄しべの順で1日おきに開花する様子が観察されている5)。
なお、ナンゴクアオウキクサは自家不和合性を示す5)。
アオウキクサ類の開花個体は通常よりも葉状体の気室が発達し、厚みが増す5)。
生育環境
水田やため池、水路などに生育する。
アオウキクサは水田でウキクサと共に最も普通に見られるウキクサの仲間で、除草剤の影響もあまり受けていないように見受けられる。
水田に繁茂するアオウキクサ。
休耕田を埋め尽くすように生育するアオウキクサ。
分類
アオウキクサを含むウキクサの仲間はかつてウキクサ科とされたが(例えば4))、現在ではサトイモ科のウキクサ亜科とされている6)。
アオウキクサ属は分類が混乱してきた過去があり、アオウキクサLemna aoukikusa自体も1985年になってナンゴクアオウキクサL. aequinoctialisと区別される形で新種記載されたものである5)。
それまではこれらは混同され、アオウキクサがL. aequinoctialisとして扱われていた5)。
亜種
アオウキクサには以下の2亜種が認められている1,5)。
- アオウキクサLemna aoukikusa subsp. aoukikusa
- ホクリクアオウキクサLemna aoukikusa subsp. hokurikuensis
基亜種が北海道~九州の広い範囲に見られるのに対し、ホクリクアオウキクサは本州日本海側の山形~岐阜に分布している2)。
亜種間の差異については識別の項を参照。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)角野康郎 2014. 『ネイチャーガイド 日本の水草』文一総合出版.
3)清水建美 2001. 『図説 植物用語辞典』八坂書房.
4)角野康郎 1994.『日本水草図鑑』文一総合出版.
5)別府敏夫, 柳瀬大輔, 野渕正, & 村田源. (1985). 日本産アオウキクサ類の再検討. 植物分類, 地理, 36(1-3), 45-58.
6)Stevens, P. F. (2001 onwards). Angiosperm Phylogeny Website. Version 14, July 2017 [and more or less continuously updated since]. http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/. 2024/10/22閲覧.
編集履歴
2024/10/22 公開