植物 > 被子植物 > クスノキ目 > クスノキ科 > タブノキ属
分布1,2,4,5,6,7):本州、四国、九州、琉球。北限は青森県深浦町6)。特に分布の北寄りにおいて、分布は海岸部に限られる5,7)。琵琶湖周辺では特異的に内陸部に分布が見られる7)。国外では朝鮮半島南部、台湾、中国1,6)。
暖地の海沿いでよく見られるクスノキ科の常緑樹。赤くて丸みを帯びる冬芽の形が特徴的で、識別の助けとなる。春に黄緑色の両性花を咲かせるが、雌性期と雄性期があり、時間帯で咲き分けている。
タブノキの概要
花期1) | : | 4-5月 |
希少度 | : | ★(ごく普通) |
生活形1,2) | : | 常緑高木 |
生育環境1,2,7) | : | 沿海地に多い |
学名3) | : | 種小名thunbergiiはスウェーデンの植物学者カール・ペーター・トゥーンベリへの献名。 |
別名1,2,9) | : | イヌグス |
タブノキの形態
葉
葉は枝先に集まってつき、先寄りで幅広くなる。
ちぎるとクスノキ科らしい香りがする。
先が短く尖る葉形が標準的。
ただし葉形には変異が多く、慣れないうちは識別に注意が必要。
ひこばえ状の徒長枝についたイレギュラーな形の葉。
同じく徒長枝の葉。葉裏が白みを帯びる点が本種の大きな特徴。
また、よく膨らむ赤い冬芽も大きな手掛かりになる。
幼木。かなり細い葉形をしている。
慣れるまでは色々な種と間違える可能性を秘めた種である。
同じ株の葉。
葉裏が白っぽく、冬芽が赤く膨らむ特徴は安定している。
冬芽
冬芽は赤みを帯び、よく膨らむ。
この冬芽の形が識別の大きな手掛かりとなる。
ホソバタブの冬芽はやや似るため注意。
芽鱗の縁には金色の毛が生える。
春先に動き出した冬芽。
新葉が赤みを帯びる点がホソバタブと異なる。
花
花は春、新しい枝の腋に円錐花序を出す。
花序の分枝は散房状に広がる1)。
花は両性だが雌性先熟。
花被片は内側の3個がやや大きく、内側には細毛が生える9)。
異形異熟性という特徴的な開花特性を有する(後述)。
樹皮
樹皮は淡褐色~褐色でなめらか。皮目が散在する9)。
成木の樹皮。
成木の樹皮。
老木の樹皮。
樹形
大型の成木の樹形。
老木の樹形。
「島陰白山神社のタブノキ」。
生態
異形異熟性Heterodichogamy
タブノキは雌雄同株かつ両性花をつけるが、雌雄の機能が時間的に転換する異型異熟性heterodichogamyと呼ばれる開花様式を示す11)。
heterodichogamyは次の4つの条件を兼ね備えている場合に成立するとされる10):
①異熟に個体レベルの同調性がある(同調性異熟)
②集団が異熟の順序またはタイミングが異なる2タイプの個体からなる(二型性)
③同一タイプの個体同士では雌性期同士・雄性期同士が同調する(タイプ内の同調性)
④一方のタイプの雌性期ともう一方のタイプの雄性期が同調する(タイプ間の相補性)
heterodichogamyは11科18属で知られ、様々なパターンがある。
タブノキにおいては次の4つの特徴があることが判明している11)。
①両タイプとも雌性先熟である。
②雌性→雄性の変化にあたって花の閉じる間隔には12時間と24時間の二型性がある。
③各タイプは午前中に雌性花が咲き午後に雄性花が咲く、またはその逆である。
④開花の二型性は個体レベルで同調している。
すなわち、タブノキ集団には次の2タイプが見られる:
1)morning female:7~8時に雌性花として開き、13~14時に閉じ、次の日の12~13時に雄性花として開き、17~18時に閉じる。
2)morning male:13~14時に雌性花として開き、18~19時に閉じ、翌日の6~7時に雄性花として開き、14~15時に閉じる。
これらは自家受粉を避け、他家受粉を促進するための機構であると考えられる11)。
花粉媒介昆虫(ポリネーター)
訪花昆虫としてはジェネラリストのハチ目、ハエ目、コウチュウ目昆虫が優占しているとされる11)。
種子散布
種子は鳥によって散布される8)。
識別
葉形の個体差が大きいため、普通種でありながら慣れないうちは識別に悩む種の一つである。
鋸歯が全く出ないこと、葉裏が白みを帯びること、冬芽が赤くてよく膨らむこと、を確認すれば比較的明瞭に識別できる。
タブノキとホソバタブの識別
同属のホソバタブとは時によく似るため注意。
通常はホソバタブのほうが葉が細く、縁が波打つ傾向がある。
またホソバタブは葉幅が基部寄りで最大となり、冬芽はタブノキに似るもののより小さい。
文献
1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)田中信行・松井哲哉 (2007-) PRDB:植物社会学ルルベデータベース, 森林総合研究所. URL: http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/index.html 2023/12/21閲覧.
6)石田弘明. (2020). タブノキの分布北限個体群の現状. 植生学会誌, 37(1), 57-61.
7)服部保. (1992). タブノキ型林の群落生態学的研究: I. タブノキ林の地理的分布と環境. 日本生態学会誌, 42(3), 215-230.
8)平田令子, 畑邦彦, 曽根晃一 2006. 果実食性鳥類による針葉樹人工林への種子散布. 日本森林学会誌 88(6):515-524.
9)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.
10)福原達人. (2011). Heterodichogamy (異型異熟) の自然史. 分類, 11(1), 35-46.
11)Watanabe, S., Noma, N., & Nishida, T. (2016). Flowering phenology and mating success of the heterodichogamous tree Machilus thunbergii S ieb. et Z ucc (L auraceae). Plant Species Biology, 31(1), 29-37.
編集履歴
2023/12/21 公開
2024/1/30 識別用比較画像を追加