タブノキ Machilus thunbergii

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兵庫県神戸市 2015/4/16
※分布図は目安です。

分布1,2,4,5,6,7):本州、四国、九州、琉球。北限は青森県深浦町6)。特に分布の北寄りにおいて、分布は海岸部に限られる5,7)。琵琶湖周辺では特異的に内陸部に分布が見られる7)。国外では朝鮮半島南部、台湾、中国1,6)

暖地の海沿いでよく見られるクスノキ科の常緑樹。赤くて丸みを帯びる冬芽の形が特徴的で、識別の助けとなる。春に黄緑色の両性花を咲かせるが、雌性期と雄性期があり、時間帯で咲き分けている。

タブノキの概要

花期1)4-5月
希少度★(ごく普通)
生活形1,2)常緑高木
生育環境1,2,7)沿海地に多い
学名3)種小名thunbergiiはスウェーデンの植物学者カール・ペーター・トゥーンベリへの献名。
別名1,2,9)イヌグス

タブノキの形態

沖縄県竹富島 2015/3/5

葉は枝先に集まってつき、先寄りで幅広くなる。
ちぎるとクスノキ科らしい香りがする。

福井県高浜町 2014/8/30

先が短く尖る葉形が標準的。
ただし葉形には変異が多く、慣れないうちは識別に注意が必要。

京都府宮津市 2014/3/29

ひこばえ状の徒長枝についたイレギュラーな形の葉。

京都府宮津市 2014/3/29

同じく徒長枝の葉。葉裏が白みを帯びる点が本種の大きな特徴。
また、よく膨らむ赤い冬芽も大きな手掛かりになる。

和歌山県田辺市 2014/3/17

幼木。かなり細い葉形をしている。
慣れるまでは色々な種と間違える可能性を秘めた種である。

和歌山県田辺市 2014/3/17

同じ株の葉。
葉裏が白っぽく、冬芽が赤く膨らむ特徴は安定している。

冬芽

福岡市西区 2021/2/7

冬芽は赤みを帯び、よく膨らむ。
この冬芽の形が識別の大きな手掛かりとなる。
ホソバタブの冬芽はやや似るため注意。

宮崎県綾町 2022/1/16

芽鱗の縁には金色の毛が生える。

宮崎市 2022/3/27

春先に動き出した冬芽。
新葉が赤みを帯びる点がホソバタブと異なる。


兵庫県神戸市 2015/4/16

花は春、新しい枝の腋に円錐花序を出す。
花序の分枝は散房状に広がる1)

宮崎市 2022/3/27

花は両性だが雌性先熟。
花被片は内側の3個がやや大きく、内側には細毛が生える9)
異形異熟性という特徴的な開花特性を有する(後述)。

樹皮

福岡市西区 2021/2/7

樹皮は淡褐色~褐色でなめらか。皮目が散在する9)

京都府宮津市 2014/3/29

成木の樹皮。

和歌山県田辺市 2014/3/17

成木の樹皮。

福岡県宗像市 2021/6/27

老木の樹皮。

樹形

宮城県東松島市 2023/8/27

大型の成木の樹形。

京都府宮津市 2014/3/29

老木の樹形。
「島陰白山神社のタブノキ」。

生態

異形異熟性Heterodichogamy

タブノキは雌雄同株かつ両性花をつけるが、雌雄の機能が時間的に転換する異型異熟性heterodichogamyと呼ばれる開花様式を示す11)
heterodichogamyは次の4つの条件を兼ね備えている場合に成立するとされる10)
①異熟に個体レベルの同調性がある(同調性異熟)
②集団が異熟の順序またはタイミングが異なる2タイプの個体からなる(二型性)
③同一タイプの個体同士では雌性期同士・雄性期同士が同調する(タイプ内の同調性)
④一方のタイプの雌性期ともう一方のタイプの雄性期が同調する(タイプ間の相補性)

heterodichogamyは11科18属で知られ、様々なパターンがある。
タブノキにおいては次の4つの特徴があることが判明している11)
①両タイプとも雌性先熟である。
②雌性→雄性の変化にあたって花の閉じる間隔には12時間と24時間の二型性がある。
③各タイプは午前中に雌性花が咲き午後に雄性花が咲く、またはその逆である。
④開花の二型性は個体レベルで同調している。
すなわち、タブノキ集団には次の2タイプが見られる:
1)morning female:7~8時に雌性花として開き、13~14時に閉じ、次の日の12~13時に雄性花として開き、17~18時に閉じる。
2)morning male:13~14時に雌性花として開き、18~19時に閉じ、翌日の6~7時に雄性花として開き、14~15時に閉じる。
これらは自家受粉を避け、他家受粉を促進するための機構であると考えられる11)

花粉媒介昆虫(ポリネーター)

訪花昆虫としてはジェネラリストのハチ目、ハエ目、コウチュウ目昆虫が優占しているとされる11)

種子散布

種子は鳥によって散布される8)

識別

葉形の個体差が大きいため、普通種でありながら慣れないうちは識別に悩む種の一つである。
鋸歯が全く出ないこと、葉裏が白みを帯びること、冬芽が赤くてよく膨らむこと、を確認すれば比較的明瞭に識別できる。

タブノキとホソバタブの識別

同属のホソバタブとは時によく似るため注意。
通常はホソバタブのほうが葉が細く、縁が波打つ傾向がある。
またホソバタブは葉幅が基部寄りで最大となり、冬芽はタブノキに似るもののより小さい。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)林将之 2016. 『ネイチャーガイド 琉球の樹木 奄美・沖縄~八重山の亜熱帯植物図鑑』文一総合出版.
5)田中信行・松井哲哉 (2007-) PRDB:植物社会学ルルベデータベース, 森林総合研究所. URL: http://www.ffpri.affrc.go.jp/labs/prdb/index.html 2023/12/21閲覧.
6)石田弘明. (2020). タブノキの分布北限個体群の現状. 植生学会誌37(1), 57-61.
7)服部保. (1992). タブノキ型林の群落生態学的研究: I. タブノキ林の地理的分布と環境. 日本生態学会誌42(3), 215-230.
8)平田令子, 畑邦彦, 曽根晃一 2006. 果実食性鳥類による針葉樹人工林への種子散布. 日本森林学会誌 88(6):515-524.
9)茂木透・勝山輝男・太田和夫・崎尾均・高橋秀男・石井英美・城川四郎・中川重年 2000. 『樹に咲く花―離弁花〈1〉 (山渓ハンディ図鑑) 改訂第3版』山と溪谷社.
10)福原達人. (2011). Heterodichogamy (異型異熟) の自然史. 分類11(1), 35-46.
11)Watanabe, S., Noma, N., & Nishida, T. (2016). Flowering phenology and mating success of the heterodichogamous tree Machilus thunbergii S ieb. et Z ucc (L auraceae). Plant Species Biology31(1), 29-37.

編集履歴

2023/12/21 公開
2024/1/30 識別用比較画像を追加