ヤマコウバシ Lindera glauca

植物 > 被子植物 > クスノキ目 > クスノキ科 > クロモジ属

大阪府高槻市 2014/7/21
※分布図は目安です。

分布1,4,5):本州(宮城県以南)、四国、九州。新潟のRDBには記載があるが、山形には記載がない。海外では朝鮮半島、中国。

早春に花を咲かせるクスノキの仲間。落葉樹であるが、枯れた葉が冬にも落ちずに残ることで知られる。日本国内には雌株しか知られていない。

ヤマコウバシの概要

花期1)4月
希少度★★★(やや稀)
生活形落葉低木
生育環境2)丘陵~山地の林内や林縁
学名glaucus「葉にブルームがある3)
※英語のglaucous(白い粉で覆われた)と同語源と考えられる

ヤマコウバシの形態

福岡県広川町 2021/9/12

葉は互生し、葉身長5-10㎝2)
楕円形で、葉柄が短いことが大きな特徴。
平べったく、やや硬い質感である。
ちぎると和名の通り、強めの芳香がある。

福岡県広川町 2021/9/12

葉裏は白みを帯びる。
葉裏にははじめ絹毛が多いが、のちに毛は落ちる。

大阪府高槻市 2014/4/26

春先の展開して間もない若い葉。
若枝とともに毛が多い。

大阪府高槻市 2014/4/26

若い葉の葉裏は絹毛に覆われる。

石川県金沢市 2017/11/11

秋には黄色く黄葉する。

石川県金沢市 2017/11/11

黄葉した葉。

大阪府高槻市 2014/3/11

冬になっても枯れた葉が落ちずにしばらく残ることが顕著な特徴である。

兵庫県三田市 2015/2/12

落ちずに残った枯葉。
同様に冬に葉が残りやすいカシワやクヌギでは、樹木が枯れた葉を落とす際に形成される「離層」ができにくいとされる7)
本種が落葉しづらいのも同様のメカニズムによるのかもしれない。

果実

兵庫県佐用町 2015/6/28

未熟な果実。
秋に黒く熟す1)

樹皮

大阪府茨木市 2014/2/22

樹皮は淡褐色~茶褐色でなめらか6)

冬芽

大阪府高槻市 2014/3/11

冬芽は花芽と葉芽が同居する「混芽」で、同属のクロモジやアブラチャンなどとは一見して異なる。

大阪府島本町 2014/3/31

芽鱗は7-9枚6)

生育環境

兵庫県三田市 2015/2/12

落葉樹林内に生えるヤマコウバシ。
冬も葉が残っている個体は遠目にも目立つ。

大阪府高槻市 2014/3/11

林道沿いに生育するヤマコウバシ。
こちらも冬の様子。

識別

クロモジ属は花の時期にはそれぞれよく似ている。
本種は花被片が長さ約1.4㎜と非常に小さく1)、色も淡いためあまり目立たない。
また、後述のように本種は国内では雌株しか知られておらず、雌花しか見られない8)

冬芽

花芽と葉芽が同じ冬芽に入っており(混芽)、丸い花芽が独立している同属他種(アブラチャンやクロモジなど)とは明らかに異なる。
また枯葉が春まで残る場合が多く、識別の参考になる。

葉は一見特徴に乏しいが、楕円形で葉先が鈍く尖り、葉柄が短いことなどを総合すれば比較的識別しやすい。
迷った場合、葉をちぎると和名の通り「香ばしい」強めの香りがあることも識別の助けとなる。
同属のクロモジは葉が枝先に集まってつき、葉柄が長い。
同じく同属のアブラチャンも葉柄が長く、葉先はより長く尖る。
春先の葉が柔らかい時期はツツジ類などに似て見えるかもしれないが、本種は葉が枝先に集まってつくことはない。

ヤマコウバシの単為生殖

ヤマコウバシは日本国内では雌株のみが知られており、アポミクシス(無融合生殖)を行っている。
一方、中国では雄株も知られており、日本の個体群はボトルネックまたは創始者効果によって偶然に単為生殖となったのではないかと考察されている8)
同研究(Zhu et al. 2020)によれば、日本の個体群のほうが全体的に遺伝的多様性が低かったものの、中国の個体群の中にもアポミクシスを行っているものが存在していることが示唆されたとしている。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)新潟県 2001. レッドデータブックにいがた. URL: https://www.pref.niigata.lg.jp/sec/kankyotaisaku/1214240790991.html 2023/11/6閲覧.
5)山形県 2013. 山形県第2次レッドリスト(植物編). URL: https://www.pref.yamagata.jp/050011/kurashi/shizen/seibutsu/yamagata_red_list2013/yamagata_red_list2013.html 2023/11/6閲覧.
6)鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014. 『ネイチャーウォッチングガイドブック 四季を通じて樹木を観察する 431種 樹皮と冬芽』誠文堂新光社.
7)清水建美 2001. 『図説 植物用語辞典』八坂書房.
8)Zhu S.S., Comes H.P., Tamaki I., Cao Y.N., Sakaguchi S., Yap Z.Y., Ding Y.Q., Qiu Y.X. 2020. Patterns of genotype variation and demographic history in Lindera glauca (Lauraceae), an apomict‐containing dioecious forest tree. Journal of Biogeography 2020;00:1–15.

編集履歴

2023/11/7 公開