クロモジ Lindera umbellata

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福井県南越前町 2015/4/12
※分布図は目安です。

分布1,2,4):北海道(渡島半島)、本州、四国(稀)、九州(北部、稀)。変種については本文参照。日本固有種。

早春に咲くクスノキ科の落葉樹。身近な樹木だが近縁種が多く、その識別には注意を要する。北日本や日本海側には葉の大きな変種オオバクロモジ、太平洋側には変種クロモジが分布する。四国や九州ではほとんど見られない。

クロモジの概要

花期1)4月
希少度★★(普通)
生活形落葉低木
生育環境2)山地~丘陵の落葉樹林内
学名3)umbellatus「散形花序の」

クロモジの形態

大阪府高槻市 2014/4/26

葉には鋸歯がなく、葉幅は中央~先寄りで最大。
変種クロモジの葉は葉身長5-10㎝2)

京都市左京区 2014/5/11

変種クロモジ。
葉は枝先に集まってつく。

京都市左京区 2014/6/29

変種クロモジ。
クロモジの葉表はほぼ無毛。枝は緑色。
別種のケクロモジは葉表にも毛が多数生える。
ウスゲクロモジ、ヒメクロモジについては「クロモジの分類」の項参照。

大阪府高槻市 2014/4/26

変種クロモジ。
葉裏は白っぽく、はじめ絹毛があるがのちにほぼ無毛。

福井県大野市 2015/11/10

変種オオバクロモジ。
寒地を中心に分布する変種。

岐阜県飛騨市 2014/9/21

変種オオバクロモジ。
葉は変種クロモジよりも大きく、7-14㎝。

岐阜県飛騨市 2014/9/21

変種オオバクロモジ。
変種クロモジとの間には中間型もあり、連続的に変異する。

兵庫県宝塚市 2015/3/31

花序は4月ごろ、葉と同時に展開する。
アブラチャンダンコウバイシロモジカナクギノキとは枝が鮮やかな緑色であることで区別できる。
ケクロモジウスゲクロモジヒメクロモジについては「クロモジの分類」の項参照。

大阪府高槻市 2014/4/7

花は淡緑色。
花の時期に見られる若い葉は絹毛が多い。

福井県南越前町 2016/4/9

変種オオバクロモジの花。
変種クロモジと花の形態に差はない。

福井県南越前町 2015/4/12

変種オオバクロモジの花。
雌雄異株で、写真のものは雄花。

果実

京都府南丹市 2014/8/14

果実は秋に黒熟する。

京都市左京区 2014/6/29

若い果実。

冬芽

滋賀県高島市 2015/3/28

冬芽は尖った葉芽の脇に数個の丸い花芽がつく特徴的な形をしている。

滋賀県高島市 2015/3/28

アブラチャンダンコウバイヤマコウバシカナクギノキなどにも似ているが、枝が鮮やかな緑色であることから区別できる。

樹皮

大阪府高槻市 2014/2/21

成木の樹皮は灰褐色、皮目が散在する。

大阪府高槻市 2014/4/7

若木の幹の樹皮は暗緑色。

クロモジの分類

クロモジ属の中でも、クロモジに近縁な数種の分類上の扱いにはいくつかの説がある。
オオバクロモジは本ページで扱っている通り、クロモジの変種 L. umbellata var. membranaceaとされるのが普通である。
ケクロモジはクロモジの変種とする考えもあるが、現在では独立種 L. sericeaとするのが一般的。
ウスゲクロモジはケクロモジの変種 L. sericea var. glabrataとされることが多いが、独立種という意見も強い。小山(1987)4)は形態上の類似性からケクロモジよりもヒメクロモジに近縁だろうとしている。
ヒメクロモジはクロモジの変種として記載されたが、独立種 L. lanceaとされることが多い。ケクロモジの変種とする意見もある。

各分類群の特徴は下表のとおりである。
分布域である程度絞り込むことができる。変種クロモジは四国や九州にはほとんどない。

クロモジオオバクロモジケクロモジウスゲクロモジヒメクロモジ
分布本(四、九)
(太平洋側)
北~近畿
(日本海側)
中国、四、九関東~九
(やや高標高)
東海~九州
葉身長2)5-10㎝7-14㎝6-12㎝7-15㎝4-10㎝
葉表の毛ほぼ無毛ほぼ無毛軟毛密生脈上中心に絹毛脈上中心に絹毛
葉裏の毛脈上に絹毛脈上に絹毛軟毛密生脈上中心に絹毛脈上中心に絹毛
葉裏の網脈1)隆起弱い隆起弱い強く隆起強く隆起隆起弱い
花序柄の毛1,4)白色白色黄褐色黄褐色赤褐色
国内産クロモジ群の特徴まとめ

識別

ケクロモジなどとの識別点は上の項を参照。
それ以外の種については、葉が枝先に集まってつくこと、枝が緑色であることを確認すれば識別は難しくない。
タムシバなどは葉の質感が似ているため一応注意。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)小山博滋 1987. クロモジ群の分類と分布. 植物分類・地理 38:161-175.

編集履歴

2023/6/18 公開
2023/11/5 識別の項に追記