アブラチャン Lindera praecox

植物 > 被子植物 > クスノキ目 > クスノキ科 > クロモジ属

京都市左京区 6/29
※分布図は目安です。

分布1,2,4,5):本州~九州。北は青森県、南は鹿児島県まで分布する。海外では中国東部。

落葉性のクスノキの仲間。本州から九州まで広く分布する。呼び名のような不思議な和名だが、その由来ははっきりしない。早春、葉が出るよりも前に黄色い花を咲かせる。

アブラチャンの概要

花期1)3-4月
希少度★★(普通)
生活形落葉低木~小高木
生育環境2)山地~丘陵の谷沿いや多少湿った斜面
学名3)praecox:「非常に早い」

アブラチャンの形態

京都市左京区 6/29

葉は葉身長5-8㎝、鋸歯がない(全縁)2)
葉幅は中央付近で最大。
クロモジにやや似るが、本種のほうが葉先が尖る傾向がある。

京都市左京区 6/29

葉裏は白みを帯びる。
両面ともに無毛。

京都市左京区 10/4

本属はすべて葉が交互につく(互生)。
クロモジの葉は枝先に集まってつくが、アブラチャンの葉はそうならない。

京都市左京区 10/4

花は早春3-4月、ふつう葉に先立って咲く。
本属(クロモジの仲間)は花の時期は互いによく似ており注意が必要。
雄花/雌花、花の開花ステージ、個体差等によっても異なるため注意深く観察する必要がある。

広島県神石高原町 3/20

花のまとまり(花序)には3-4㎜の柄(花序柄)がある。
それぞれの花序には花が数個つく。
本属は雌雄異株で、写真のものは雄花。

岩手県雫石町 2023/4/2

小さな花だが、クロモジよりも鮮やかな黄色が遠目にも目立つ。
写真は雄株。

岩手県雫石町 2023/4/2

雄株。

果実

京都市左京区 6/29

果実は15㎜ほどの球形。

京都市左京区 6/29

黄褐色で、果実の表面、果柄、果序柄には通気組織(皮目)がある。
近縁のシロモジには皮目がない。

樹皮・冬芽

京都市左京区 6/29

樹皮は暗褐色でやや光沢がある。

山梨県北杜市 1/3

冬芽は花芽と葉芽が別で、丸いものが花芽である。

山梨県北杜市 1/3

クロモジなど同属他種に似るが、アブラチャンの冬芽は花芽の柄が長く、葉芽よりも長く飛び出すことで区別できる。

識別

花の時期

花の時期にはクロモジ属は各種よく似ており、慎重に同定する必要がある。

クロモジケクロモジカナクギノキは花と同時に葉も展開し、花はより緑っぽく見える。
ダンコウバイはよく似ているが、花序柄がなく、枝から直接花序が伸びているように見える。
シロモジもよく似ているが、アブラチャンの小枝や花序柄には皮目(斑点状の通気組織)があるのに対し、シロモジにはない。葉が出ていれば3裂しているため容易に識別できる。

葉の時期

葉は特徴が無いようでいて、その実似ているものはほとんどないのでよく見れば識別は難しくない。
鋸歯の弱いエゴノキと似て見えることがあるかもしれないが、エゴノキには葉裏や葉柄に粗い毛があり触り心地も全く異なる。
その他、葉裏が白っぽい点もポイントになる。
同属のクロモジは質感がよく似ているが、クロモジは葉が枝先に集まってつくほか、アブラチャンほど葉先が尖らない。
冬芽での見分け方は冬芽の項を参照。

アブラチャンの種内変異

変種アブラチャン var. praecox:本州・四国・九州に分布する基変種。葉裏は無毛。
変種ケアブラチャン var. pubescens:本州(主に日本海側)と九州(熊本)に分布。葉裏の中脈・側脈上に開出毛がある。

アブラチャン(和名)の語源について

変わった名前、かわいい名前として受け止められることの多い本種であるが、その語源には諸説あり明確な答えはない。
以下のような説があるようである6)
説①:アブラ(油)とチャン(瀝青;防腐用塗料)が合わさってできた。
説②:アブラとチサ/ヂサ(エゴノキ)が合わさってできた。
説③:アブラとチャ(茶)が合わさってできた。
①は本種が油を多く含むため、②・③はそれぞれ果実が本種と似ているためと説明される。

文献

1)大橋広好・門田裕一・木原浩・邑田仁・米倉浩司(編) 2015.『改訂新版 日本の野生植物 1 ソテツ科~カヤツリグサ科』平凡社.
2)林将之 2014.『山渓ハンディ図鑑14 樹木の葉 実物スキャンで見分ける1100種類』山と渓谷社.
3)Lorraine Harrison 2012. Latin for gardeners. Quid Publishing. (ロレイン・ハリソン 上原ゆう子(訳) 2014. 『ヴィジュアル版 植物ラテン語辞典』原書房.
4)細井幸兵衛 2011. 青森県の北限・南限植物 (受賞記念講演記録). 植物地理・分類研究 58(2):77-87.
5)鈴木英治・丸野勝敏・田金秀一郎・寺田竜太・久保紘史郎・平城達哉・大西亘 2022.『鹿児島大学総合研究博物館研究報告 No.17 鹿児島県の維管束植物分布図集 -全県版-』鹿児島大学総合研究博物館.
6)横山健三 2001. アブラチャン・ケアブラチャンの由来・語源. 新潟県植物保護 29:3-3.

編集履歴

2023/1/15 公開
2023/11/5 花の項に写真を追加、識別の項に追記